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謝罪


 シマント少佐は唖然とした表情を浮かべる。それもそのはず。ヘーゼンは、明確に命令違反を犯したのだ。上位下達の原則を、他ならぬ自らが踏み躙って見せた。


 しかし、ヘーゼンはそんなことは気にもせずに、シマント少佐や他の兵たちに向かって吐き捨てる。


「命を助けてもらっておいて、化け物呼ばわりするようなやつや、肩すらも貸さない輩のために、私の大事な部下は使わせません」

「き、貴様! その化け物も帝国軍人だろ! 上官の命令は絶対だ!」

「なにか勘違いされてるようですが、カク・ズは私の護衛士です。したがって彼は軍に所属している訳ではなく、あくまで私の部下だ」

「なっ、ならば! 貴様に命じる。上官命令だ!」

「嫌ですね」


 ヘーゼンはキッパリと答えた。


「き、貴様っ」

「今日の功績が第一大隊と第三大隊の成果だと言うならば、明日はあなたが第一大隊と第三大隊を率いて戦えばよいでしょう? 今日と同じことができるというならば、やってみるがいい」

「ぐっ……」


 シマント少佐が歯を食いしばって沈黙する中、ヘーゼンは兵たちをグルリと見渡す。


「そうですね……今日の被害はほとんどなかったのだから、明日くらいならば半分ほどが死に物狂いで戦えば要塞を守れるでしょう」

「ふっ、ふざけるなよ? 上官命令に逆らうと言うのか?」

「はい」

「こんのおおおおおおおおっ」


 シマント少佐が拳を振るったが、ヘーゼンはそれを避けて風柳だおりゅを振るった。途端に切り裂くような風圧がシマント少佐の頬をかすめる。彼は思わず、腰が抜けてへたり込む。


「がっ……ががが」

「失礼。少佐の髪にゴミがついてました」


 ヘーゼンは満面な笑みで真っ二つにした大きめのゴミを見せる。もちろん、あらかじめ準備したものだ。


「き、貴様! 私を殺そうとしたな?」

「いえ。私はゴミを払っただけです」

「う、嘘をつくな」

「嘘ではありません。このゴミを払いました。綺麗好きでね。私はゴミは排除します……敵国だろうと帝国だろうと……徹底的にね」

「ひっ……」


 ヘーゼンはそのゴミを足下に落として、踏み潰した。


「じょ、上官命令は絶対だ! これほどの有事にも関わらず、それに逆らうなど、極刑だぞ?」

「お好きになさってください」

「なんだと!?」

「早く、ジルバ大佐に知らせるといい。『私の部下を化け物呼ばわりしたので、使わせてくれませんでした』と、子どもの使いのようにね」

「……っ」

「言っておきますが、私はカク・ズと共闘することでギザール将軍と対抗する気でいました。あの強さは異常ですからね。しかし、カク・ズは使いません」

「そ、それでは帝国は負けてしまう」

「仕方ないですね。あなたが、人の部下を化け物呼ばわりするのですから」


 ヘーゼンがニッコリと満面の笑みを浮かべる。


「……悪かった」

「はい?」

「私が悪かった! だから、化け……カク・ズとやらを使え」

「嫌です」


 !?


「き、貴様……謝ったではないか!」

「はい。しかし、許しません」

「ど……どうすればいいのだ?」

「まずは……が高いですね。そんな横柄な態度ではね」


 ヘーゼンは足下を見る。

 

「……正気か?」

「見えませんね。せめて、私の目線に合わせてもらわないと。そしたら、考えます」

「くっ……」


 シマント少佐は、しばらく歯を食いしばっていたが、やがて地面に手のひらをつけて、額を頭につけた。


「私が悪かった。どうか、カク・ズを明日の戦闘に使わせてくれ」

「横柄な言葉遣いですね。それが、人に物を頼む態度ですか?」

「……っ、貴様……どう言うつもりだ?」

「わかりませんか?」


 ヘーゼンは満面な笑みで。


 シマント少佐の額に自身の靴を置いて。


 キッパリと答えた。


「僕はね……あんたの足下を見てるんですよ」

「……っ」

「この戦は、僕とカク・ズがいないと終わりだ。そんなこともわからない愚者だから、こんな風にされるんですよ」


 グリグリと足でシマント少佐を押し潰す。


「……っ、がぃします」

「どうしましたか? 聞こえませんね。なんですか?」

「……お願いします。どうか、カク・ズを、明日の戦闘に使わせてください」

「はい。よくできました」


 ヘーゼンはニッコリと笑顔を浮かべる。


「……くっ」

「でも、嫌です」


 !?


「ちゃ、ちゃんと敬語を使ったではないか!?」

「はい。なので、0.001秒考えました」

「か、か、考えてないではないか!? そんなの考えたうちに入らない!」

「連帯責任ですよ。ほら、言うでしょう? 部下の責任は監督者の責任って?」

「ま、まさか……じ、ジルバ大佐に報告して、頼めとでも?」

「ジルバ大佐? ぜーんぜんダメです。それでは、晴れないんですよ、僕の気が」

「も、もっと上……貴様……正気か?」


 シマント少佐が、キッと睨むと、ヘーゼンが満面の笑みで答える。


「皇帝ですよ」

「……はっ?」


























「どうしてもと言うならば、皇帝陛下を連れてきてください」


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