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人材


           *


 脇目も降らず、ヘーゼンは馬で駆ける。当然、遥か後方で『チックショー』と叫び狂う瓢箪顔面老人のことなど、意識の隅にも入らない。


「いいんですか? 用件だけでも聞いておいた方がいいのでは?」


 隣のレイラクは、苦笑いを浮かべながら尋ねる。


「必要ありません。首が絞まっているのは、あちらの方だ」


 接触する時間を減らすことで、考える時間を減らす。そうすることによって、相手は焦る。そうすれば、冷静な判断ができなくなり悪手を打つ。


「……すでに、何かヘーゼン殿に仕掛けて来たのではないですか?」

「そうかもしれません。であるのならば、なおさら聞かない方がいい」


 ヘーゼンはキッパリと答える。切り札は、出す場所があってこその切り札だ。出す場所がなければ、相手はどうにかして出そうとする。


 そうすれば、多少、無理があっても強引に行動を起こそうとする。そこに、歪みやねじれが生じて隙ができる。


 そこを刺す。


「まあ、やることが多くて構っていられないというのも事実です」

「……アウラ秘書官は、『あまり派手に動かないで欲しい』と言ってましたが、まあ、無駄な制止でしたな」


 レイラクは大きくため息をつく。


「申し訳ないですね。時間を1秒も無駄にするつもりはないんです」


 特に、この期間はやる事が山ほどある。目下、力を入れたいのは、将来を見据えた自領の戦力強化である。元最年少竜騎兵団団長のラシードが、そろそろ竜騎を連れてくるために、砂国ルビナに旅立つ。


 弟子のラスベルも、そろそろテナ学院に戻さないといけない。そうすると、実質的な戦力がカク・ズと領主代行のラグだけだ。


 とにかく元雷鳴将軍ギザールの離脱が痛かった。安定感とフットワークの軽さが同居するような存在は少ない。正直言って、かなり使い勝手が良かった。


 将来のため、泣く泣くイリス連合国に売ったが、やはり、いなくなってそのありがたみを痛感した。


「……」


 レイラクのような優秀な副官がいれば、もう少し楽なのだが、『ない袖を振っても仕方がない』とヘーゼンはため息をつく。


「……それで? これからどこに行くのですか?」

「テナ学院に。ちょうど、弟子のヤンが入学するので、先生方に挨拶しないと」


 これに関しては、特に念入りな根回しが必要だと感じてる。ヤンは未だ、魔法が使えない状態だ。魔力の胎動は感じるので、あとは放出になれるだけなのだが、これはかなり難しい。


 まあ、才能だけは飛び抜けてあるから、練習をすれば、数ヶ月もしないうちに使えるようになるだろうが、それまでは教師の手厚いフォローが必要だろう。


「意外と過保護ですな。弟子のために、わざわざ挨拶なんて」

「教育への投資は惜しまない性質なんです」


 あとは、教師のバレリアに有望な生徒をもっと紹介して欲しい。ラスベル並みにとはいかなくても、あの学院ならば、それなりの人材はいるはずだ。


 今のうちに目をつけておいて、後々の戦力に当てたいものだ。そんなことを考えていると、レイラクが呆れた表情を浮かべる。


「目下、ヘーゼン殿と社交を行いたい上級貴族は山ほどいます。彼らを差し置いて、まだ子どもの生徒たちに目を向けるのですか」

「もちろん、重要なポジションの方や、気になる方には会います。ですが、そちらは多少なりとも焦らした方がいいのです」


 人は人気のあるものに群がる性質がある。そして、人気があることを見せるには、行列を作らせるのが効果的だ。


「……なるほど。セルフプロデュースにも余念がないと言うことですか」

「そんな大層なものじゃありませんよ。ただ、人は本当に欲しいものならば、いくら並んだって、高価なものだって買うものでしょう?」

「……」

「そして、並べば並ぶほど……費やした対価に見合った成果を誇りたいものだ」


 今のヘーゼンは希少価値が高い。イリス連合国を滅ぼし、大将軍グライドの首を取った若き将官。天空宮殿の話題を席巻している人物と社交ができると言うことは、他の貴族に対して優位を見せる事ができる。


 言わば、プレミアがついている状態だ。ヘーゼン=ハイムと社交するだけで、他の貴族たちに対して自慢ができる。話が盛り上がる。だから、群がってくる。


 ヘーゼンにとっては、くだらないことこの上ないが、貴族社会においては、非常に重要なステータス作りとなる。


 それならば、より高く価値をつける者に買わせた方がいい。


「本来ならば、この機会にデリクトール皇子など、他の皇位継承候補者と会ってみたかったが……」

「それは、私が全身全霊で止めます」

「……」


 レイラクはニッコリと笑顔を浮かべる。やはり、アウラ秘書官に面会する人物の制限を指示されているのだろう。


 籠に入れられたように窮屈ではあるが、今、勝手をして彼と敵対するのはマズい。そう言った状況を踏まえて行動できるレイラクもまた優秀だ。


「……やはり、臨機応変に対応できるいい人材ですな。アウラ秘書官が羨ましい」

「褒めたところで、何も出ませんよ。私はヘーゼン殿の恐ろしさを知ってますからね」

「はぁ……」


 黒髪の青年は大きくため息をつく。


 人材が不足している。


 ヤンをテナ学院に派遣すると、内政面でも心許なくなってくる。そう言う意味では、ノクタール国には潤沢な人材がいた。


 ヘーゼンは内心でかなり焦っている。功績がデカ過ぎるが故に、授与される土地も財も莫大だ。そうなってくると、防衛力も内政面も強化しないといけないのだが、それが追いつかない。


 人材が不足している。


 その時、伝書鳩デシトが来た。ヘーゼンは、括り付けられていた手紙を開き、読む。


『帝都で有名な()()マッチングプリンちゃんをスカウトできましたゾー。これで、熟○デ○専人気△×嬢目当てに、集客が見込めますゾー。我が領の歓楽街にも、ますます粒が揃って来ましたゾー。モズコール』


「……」



























 人材(変態)はいるんだよなぁ、とヘーゼンはため息をつく。


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