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星読み


           *


 天空宮殿に向かう馬車内では、ヘーゼンとアウラ秘書官が、今回の昇進、褒賞について激しく攻めぎあったが、なんとかまとまりを見せた。


 2人の笑顔が本当に怖かった、と後にエマはゲッソリしながらつぶやいた。


 到着したのは、豪奢が散りばめられたような煌びやかな邸宅だった。普段は、国賓級が宿泊する際に使用する施設だが、今回は特別に準備させたとのことだった。


「無駄に豪華ですな」

「こ、こらっ! ヘーゼン」


 隣のエマが嗜めると、アウラ秘書官も思わず苦笑いを浮かべる。


「そう言うな。エヴィルダース皇太子のご配慮だ」

「……なるほど」


 相当に皇帝レイバースが怖いと見える。


 皇太子は5年に1度執り行われる『真鍮の儀』で決められる。ここに、皇帝による干渉などは禁じられている。


 だが、皇位継承権に影響を及ぼさないが故に、『皇太子が皇帝の権力に依存しないか』と言えば、まったく違う。


 皇帝は譲位時期を自らが決定するので、皇帝レイバースが崩御するか、エヴィルダース皇太子を後継者と認めるまでは、真鍮の儀が続けられていくことになる。


 今回の件で不興を買えば、譲位時期はまだ先となる。実際、前皇太子であったユルゲルは、皇帝レイバースからの譲位を行われず、その後、()()()()を遂げた。


 エヴィルダース皇太子の皇帝への執着は相当なものだ。すれば、今は相当に神経過敏になっているのではないだろうか。


「暴れたんじゃないですか? 失礼ながら、少々品位に欠けて見えましたので」

「……頼むから、『失礼だ』と思ったら口を慎んでくれないか?」


 アウラはため息をついて周囲を見渡す。しかし、否定しないのは、当たらずとも遠からずと言うことだろう。


 皇帝レイバースの寿命は『あと10年は持たないだろう』と言われている。そうなれば、自動的にエヴィルダース皇太子が皇帝になるのだが、当然、その間でも真鍮の儀は執り行われる。


 5年と言う歳月があれば、次期皇太子候補となるような者が現れてもおかしくはない。とすれば、今回の失態を揉み消し、必死に挽回をしようとするだろう。


「あまり頭の良いタイプでもないし、それでいて『頭がいい』と勘違いしているから、手綱を握るのは大変でしょう?」

「……誰のことを言っているのかわからないな」

「気苦労が多そうですな。『一歩も動くな、一言も喋るな』とも言えない気性ですし」

「それは、今、君にこそ送りたい台詞だがね」


 アウラは気苦労が多そうなため息をつき、隣のエマもウンウンと頷く。


「エヴィルダース皇太子に報告し、人事院へと根回しするのに数日ほどはかかるだろう。ここならば、蔵書なども揃っている」

「出歩いてもいいのですか?」

「して欲しくはないな。動き回られると、何よりも私が落ち着かない」


 アウラ秘書官の言葉は、至って真剣だった。


「強制ではないと言うことですね。では、好きにさせてもらいましょうか」

「はぁ……まあ、そう言うと思った」

「私もです」


 そう言って邸宅から出てきたのは、レイラク=シジュンだった。彼はアウラ秘書官の右腕であり、かつてはイリス連合国でヘーゼンとともに戦った間柄だ。


「どうしてここに?」

「もちろん、護衛ですよ。衛士を自領に残したと伺いましたので」

「なるほど……」


 要するに監視役かとヘーゼンは、心の中で舌打ちをする。最も信頼する副官をつけるのは、最大限の警戒の現れだろう。


 やはり、アウラ秘書官は敵に回すと厄介だ。


「ドネア家に行くのは遠慮してもらいたいな」

「わかりました。ですが、エマを邸宅まで送り届けるくらいはよいでしょう?」

「心配しなくても私の護衛が送り届けるよ。邸宅にも数人信頼できる者を残している」

「……はぁ。わかりました」


 やはり、やりづらいとヘーゼンは大きくため息をついた。


 アウラ秘書官が去った後、レイラクが尋ねる。


「それで? どこに行かれるのですか?」

「グレース様に会いに」

「ほ、星読みのですか?」

「ええ」


 星読みは、女官により構成された専用祈職である。彼女たちは貴族同様に魔力を持つが、婚姻は許されず、生涯宮中に仕え、帝国の未来さきを占うことを生業としている。


 次期皇帝も、彼女たちが選抜する。


 真鍮の儀は皇位継承候補者の魔力を星読みの彼女たちが測定する。唯一魔力のみを測定するのは、判断基準の中で魔力の量が最も大きく左右されるからである。


 エヴィルダース皇太子が選ばれたのも、魔力量が最も多かったからだと言われている。もちろん、帝国内における功績や帝国内の影響力なども少なからず考慮されるが、割合はかなり小さいと予想できる。


「何のためにグレース様に会われるのですか?」

「世間話ですよ」

「……わかりました。ただ、イルナス皇子に会うのは遠慮してください」

「わかってます」


 イルナス皇子は、皇位継承最下位の末子だ。14歳にも関わらず、強大な魔力を保有するため発育が止まっているようで、かつてのヤンのような幼児体型である。


 そのため、『童皇子』と影で揶揄され、事あるごとにエヴィルダース皇太子の玩具おもちゃとして虐げられている。


 ヘーゼンとしては、童皇子を皇位継承権第一位へと押し上げて帝国内の覇権を握りたいと考えている。星読みのグレースはイルナス皇子の家庭教師なので、彼の性格などを知っておきたいところだ。


「しかし、事前に通達はしてるのですか?」

「いえ。なので、会えない場合は仕方ないので戻ります」


 だが、ヘーゼンは何となくだが、会ってもらえるような気はしていた。グレースは他の星読みよりも厳格な者として知られているらしいが、イルナス皇子に対して肩入れしているように見えたからだ。


「……」


 どうやってエヴィルダース皇太子の権力を削ぎ、イルナス皇子を押し上げるか。ヘーゼンは激しく脳内を回転させながら、再び馬車へと乗り込んだ。

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