表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

50/700

勝利


 背後に8種類の魔杖が出現させる。それは、物を見えなくすることができる魔杖の『幻透』と自在に物質を動かすことのできる魔杖『念導』を駆使した結果だ。


 一方で、ニデル騎団長もまた自身の魔杖を振るう。すると、死亡した兵たちの側から剣や槍が浮かび上がって、宙に浮くヘーゼンに向かって襲いかかる。


「念動の上位互換か。素晴らしい」


 そう言いながら。新たな魔杖がヘーゼンの手中に収まる。扇状のそれを振るって、即座にその場から移動して地面へと着地する。


 ヘーゼンはこの魔杖を『風鳴かざなぎ』と呼んだ。


「自在に飛翔するなど……化け物の類か」

「それができていれば苦労はない。工夫と改善の結晶だよ」


 ヘーゼンは偽らず答える。空を飛翔する能力は、彼が上位に欲した能力だ。しかし、できなかった。宝珠の質が悪く、自身を持ち上げるほどの浮力を作り出せなかったからだ。


 ニデル騎団長の魔杖やヘーゼン自身の持つ念動もまた、個体の浮力を操るが、それば固形物質にのみ適応される。


 なので、物質が常に流動しているような、いわゆる生命活動をしているものを動かすことはできない。


 代わりにヘーゼンは自身の体重をゼロにして、跳躍の力を利用したり、この風鳴かざなりが起こす風を使用して移動することを考えた。


 そして。


 地面に着地し、風鳴かざなりを再び振るうと、大量の剣や槍が一斉に吹き飛ばされる。


「このような使い方も可能だ。便利だろ?」

「……っ、ならば!」


 ニデル騎団長が叫ぶと、大岩が宙に浮いて、こちらに向かって襲いかかってきた。


「なるほど。確かに、それは風鳴かざなりでは対処できないな」


 ヘーゼンはもう片方の手のひらに別の魔杖を収めた。それは、鎌のような形状かつ槍ほどある大きさのものだった。大岩に向かってそれを振るうと、それは真っ二つに割れた。


「なん……だとっ」

「物質を切断することのみにこだわった魔杖だ。鋼斬くざんと呼んでいる。ヤジ鋼までなら、プリンみたいに斬れるので重宝しているよ」

「……っ」

「さて、そちらにもう手がなければ、チェックメイトと行こうか」

「……の、ノユダタ歩団長、私では手に負えん! 共闘を」


 ニデル騎団長が叫ぼうとした瞬間、氷の円輪を無数に放った。その数は、実に百以上。そして、彼の右足、右腕がバラバラに吹き飛ぶ。


「ぐわあああああああああっ!」

「戦場で余所見をするのは、感心しないな。狙ってくれと言っているようなものだ」


 すでに、ヘーゼンには別の魔杖が収まっていた。先日戦ったクミン族のコサクから奪った魔杖『氷円』である。


 唯一ヘーゼンが持つ7等級の宝珠を使用した魔杖だ。自身で改造したことで、一つの円輪ではなく、多数の円輪を生み出すことに成功した。


「単純な造りだが、効果は大きい。特に一個師団をまとめて屠りたい時にはね」

「……っ、ノユダタ歩団長」


 ニデル騎団長の視線には、その円輪に巻き込まれて、バラバラになっている歩団隊の面々がいた。ノユダタ歩団長の首もまた地面に落ちており、その姿は無残だった。


「残念だよ。どんな反撃をしてくるか期待していたのに……これでは、彼の魔杖の能力がわからなかった。まあ、後々解析するか」

「……無念だ。貴様のような化け物が存在しているとは」


 もはや、死に至ることは確実。しかし、半身を失ってもなお、ニデル騎団長は堂々としていた。


「この程度でそんな大層な呼び名は必要ないと思うがね」

「しかし、貴様はギザール将軍には勝てない」

「……ほぉ。そんなに強いのか、彼は?」

「強い。私が今まで見た中でも随一だ」

「それは、楽しみだ」

「先に地獄で待っているぞ」

「ああ」


 ヘーゼンは頷き、その首を切断した。その圧倒的な光景を見ていた第2大隊が沸き立つ。

 対して、ニデル騎団長率いる騎馬隊は、もはや死体だった。

 しかし、黒髪の青年はその攻撃を緩めることはない。やがて、第2大隊に向かって振り向いて手を挙げた。


「このまま、彼らを駆逐する!」


 そう叫び。


 さらに、氷円を数回振い敵陣に壊滅的な打撃を与えた。


「ぜぇ……ぜぇ……」

「へ、ヘーゼン少尉。大丈夫ですか?」

「あ、ああ。大分、疲れたがね」


 さすがに魔杖を使い過ぎた。特に百以上の氷を造りだす氷円は、慣れていないせいもあってか消耗が激しい。


「しかし……これで、勝てますよ」

「いや、まだ。西門次第だ」


 ヘーゼンは答えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ