戦闘
2日目。朝。ギザール将軍が西門に進軍している情報が入った。一方で、騎馬隊が中央門に向かって進軍している。
帝国は作戦通りシマント少佐。マカザルー大尉。ブィゼ大尉。3者を西門に向かわせた。
「ロレンツォ大尉とカク・ズも応援に回ってくれ」
「し、しかし大丈夫か?」
ヘーゼンたちがいる中央門では、ニデル騎団長の騎馬隊が猛威を奮い、門の前にいる帝国兵を駆逐している。後方には、ノユダタ歩団長率いる魔法隊が瞑想をしながら、魔力を溜めている。
「……確かに予想以上に強いですね」
団長クラスだと、帝国で言う大尉クラスなのだが、ニデル騎団長は明らかに格上だ。少なくとも、少佐クラスの実力はありそうだ。
「しかし、問題はないです。それよりも、中央門を頼みました」
「……わかった」
そう言い残して、ロレンツォ大尉とカク・ズが走っていく。それを見届けたヘーゼンは、城郭の上から、猛攻を仕掛けてくる騎馬隊を見つめる。
「さて。こちらもやるか」
ヘーゼンはつぶやき、跳躍する。手には、魔杖である『浮羽』を片手に持つ。これは、自身の体重をゼロにする魔杖である。そのため、蹴り上げた方向に浮遊することができる。
そして。
もう1つの魔杖を騎馬隊に向かって振るった。
「ぐあっ……」
途端に、騎馬隊の馬脚がガクッと崩れ、乗っていた兵たちも態勢を崩しして、馬のたてがみに顔をうずめる。
「くっ。矢を放て」
ニデル騎馬隊が武器を弓に持ち替えて、ヘーゼンに向かって矢を射るが、それは決して届くことはなかった。
ヘーゼンが魔杖を振るうたびに、その矢が地に落ちていくからだ。
「今だ、突撃!」
バズ准尉率いる第8小隊が呼応したかのように突撃を開始する。歩兵たちは態勢を崩した騎馬隊たちを、順番に駆逐していく。彼らに呼応し、第2大隊もまた続けて特攻をかける。
一方で、ヘーゼンはニデル騎団長の真ん前に降り立った。
「魔杖を2つ持ちとは。器用なものだな」
「僕にとっては、当然のことだから特にそうは思わないが」
「1つは空を飛ぶ魔杖。もう1つは、風を操る魔杖と言うところか」
「違う。1つは自身の体重を空にする魔杖。もう1つは、特定範囲に重力を付与する魔杖だ」
魔杖『地負』。その適応範囲は、30メートル四方ほどで、威力は3倍。宝珠が10等級であるが故に、このくらいのが限界である。
しかし、馬脚を崩して落馬させる芸当くらいならできる。
「……重力?」
「この地上に存在する……やめようか。もう間もなく死ぬ君が知ったところで意味がない知識だ」
「……貴様が、ヘーゼン=ハイムか?」
「ああ。負けたあと、帝国に降るなら生かすが?」
「ふざけるな。なぜ、貴様程度の実力で降らなければいけない?」
「……ならば、僕が君を遥かに凌駕すれば、その可能性はあると?」
「ないな。私は、ディオルド公国に忠誠を誓っている」
「残念だ。優秀な魔法使いは重宝するのに。で、あるならばその首をもらう」
ヘーゼンは射抜くような瞳でニデル騎団長を見つめる。
「……1つ聞きたい」
「ん? どうぞ?」
「コナハワン弓団長。殺したのは、貴様か?」
「ああ。優秀な弓団が邪魔だったのでね。戦列を乱すため殺らせてもらった」
「……もう1つ」
「ん?」
「もう1つ、貴様を殺す理由ができた。ヤツは私の親友だった」
「なるほど。わかった」
こともなげに、ヘーゼンは答え、構えた。
「……っ」
次の瞬間、ニデル騎団長は思わず質問していた。
「な、なんだ、それは?」
ヘーゼンの背後には、魔杖が8つ。それが、宙に浮いていたのだ。
「やはり、大陸では少ないのかな。多数の魔杖を操る魔法使いは」
ヘーゼンが『地負』を放り投げると、別の魔杖が手に収まる。
「くっ……」
ニデル騎馬団長が、魔杖を掲げた。
しかし、その時ヘーゼンは斜め後ろ、遥か高く飛び上がっていた。『浮羽』の効果で跳躍の力を利用すれば容易な該当である。
そして。
ヘーゼンは先端が鋭く尖った銛のような魔杖を投げた。それは、高速で飛翔して地に突き刺さると、一帯の騎馬隊を跡形もなく消滅させた。そのあまりの威力に、ニデル騎団長は唖然とする。
「悪いね。周囲を牽制させるため、使わせてもらった」
「……っ、騎兵団は手を出すな! そして、その魔杖をすぐに回収しろ」
「安心しなよ。『紅蓮』は、一撃に特化した魔杖だ。1日に1回しか使えない魔杖だから、この戦闘に使用するために、取りになどはいかない」
「……それ、抜きで私と戦うと言うのか?」
「せっかくの実戦だ。いろいろと試させてもらう」
ヘーゼンは不敵な表情で笑った。




