首都アルツール攻防戦(2)
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全方位警戒。グライド将軍と対峙する時に、注意すべき最も大切な事項だ。片時も、どんな仕草も動きを見逃さずに立ち回らなければ一瞬にして殺られる。
絶氷ノ剣は刀身から氷刃を発生させるが、その形状は自由自在だ。鋭利な氷刃だけでなく、防護のため幾重に氷膜を重ねることもできるし、地面にミリ単位の薄氷を張り巡らせることもできる。
ジライヤ軍長は自身の攻撃が塞がれたことに驚き、一瞬だが注意力が散漫になった。だが、グライド将軍は、流れるような動きで地に薄氷を張っていた。
瞬時にそれを察知したザルエグ将軍とは違い、ジライヤ軍長は気づかなかった。結果として彼の背後の薄氷面から伸びた氷刃は、彼の背中を貫いた。
「……っ」
強い。油断と呼べるほどのもの隙ではなかった。コンマ数秒。視線が外れただけで、死。大将軍と対峙するということは、すわなち、そう言うことなのだ。
ザルエグ将軍は、すぐさまシナイト軍長、バルモア軍長、ジグア軍長を集め、背中で密着させる。前後左右の警戒をすることで、絶氷ノ剣の全方位攻撃から少しでも隙を少なくする算段だ。
「なるほどの。じゃ、こいつは防げるかの?」
そう言って。
グライド将軍は火炎槍を放つ。立ち所に、巨大な炎が舞い、ザルエグ将軍に向かって襲いかかる。
「氷河絶牢」
ザルエグ将軍は、瞬時に自身の四方に巨大な氷柱を発生させ、強力な魔法壁を形成する。膨大に放たれた炎は見事に霧散した。
防御型の魔法壁であり、属性相性から言っても、勝っている。
「よし」
1等級宝珠を使用した業物の魔杖と言えど、相性次第では防御することは可能だ。
「ほほう。では、これはどうかの?」
間髪入れず。グライド将軍は絶氷ノ剣でザルエグ将軍たちの周囲に薄氷を張り巡らせる。
「無駄だ。それらから発生する氷刃の威力では、氷河絶牢を破れーー」
ザルエグ将軍が言いかけた時。
薄氷から巨大な氷塊が発生した、周囲を巨大な壁で防いだ。
「がっ……」
瞬時に十メートル四方の氷の壁がそびえ建つ。まるで、堅固な建物が一瞬にして建設されザルエグ将軍たちを閉じ込めたような錯覚に陥る。
「それで、ほい」
完全に身動きが取れなくなったところで、上空から火炎槍を叩き落とす。同じく、氷河絶牢で霧散させようとするが、その炎の塊は四方の氷塊に阻まれ、威力が分散しない。
絶え間なく注がれる炎の塊に。
「くっ……くそ!」
ジリジリジリジリと氷の柱が溶け出しているのがわかる。前後左右、そして上空には、逃げ場がない。完全に追い詰められた。
氷河絶牢の魔法壁が、徐々に亀裂が入り砕かれ始める。
「ダメだ……持たない。バルモア軍長!」
「はい! 土穴削岩」
バルモア軍長は魔杖をかざし、地中をグングンと掘り進める。火炎槍の攻撃を耐えている間に、ひたすらに掘削して別の地点への穴と繋げた。
更に。
「うおおおおおおおおおおっ!」
ジグア軍長が魔杖『与力快速』を発動。能力向上型の魔杖で、氷河絶牢の魔法壁が破れる直前にザルエグ将軍、シナイト軍長を担いで俊足で掘り起こした別の地点へと移動した。
「はぁ……はぁ……」
何とか脱出してことなきを得たが、防戦一方で非常にまずい。初手で攻撃型のジライヤ軍長を失ったのが痛かった。このまま、防御に徹していても、恐らく一刻も持たないで殲滅させられる。
かと言って、放置をすれば瞬く間に数千の兵が犠牲になる。そして……最終的には東を指揮しているジェラルド将軍を狩られて、クーデター軍の士気が激減する。
いったい、どうやって立ち向かえばいいのかが全くわかならない。
「そんな顔をする者は、ワシの知る限り、だいたい死んでいるぞ?」
「……っ」
数週間前までは、味方だったのだ。当然、強さは熟知している。だが、敵として戦うことが、これほど難儀であるとは。
その時。
「ザルエグ将軍!」
後方から、ジュノエ将軍とギシ・カ将軍、ジュナ将軍が駆けつけてきた。
「間に合ったか」
ザルエグ将軍はホッと胸を撫で下ろす。
将軍級4人での撤退防戦。
それが、クーデター側の作戦だ。
「ほぉ……なかなかに素早い。じゃ、殺るとするかの」
それでも。
グライド将軍は余裕の表情を崩さない。




