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1日目


          *


 開戦1日目。ギザールは、部隊を東西南北に配置した。そして、自身の軍は中央門から進軍を開始した。定石通り各1万ほどを割り振り、数で押し切る作戦だ。


 眼前には、大勢の兵たちが今か今かと待ち侘びている。ギザールは大きく深呼吸をし、叫ぶ。


「この戦は、大きなものとなる! 今まで帝国に対し辛酸を舐めてきたが、その屈辱を晴らす時が来たのだ!」

「おおおおおおおおっ!」


 ギザールの檄が飛び、兵たちが呼応する。士気に手応えを感じた彼は、そのまま、突撃の合図をかけようとした。


 その時。


「「「「「「うおおおおおおとおおおおおおおおおお」」」」


 帝国側から異常なほどの檄が大地を震わせる。


「……なんだ、この士気の高さは?」


 ギザールは思わずつぶやいた。通常、死地に追い込まれた者たちは、そのほとんどが戦意を失う。死中に活路を見出すなど、相当な大指揮官でなければできる芸当ではない。


 しかし、帝国軍の声が一体となり、おびただしいほどの熱気に満ち満ちている。ラングトン親衛団長も、その異様さを感じ取り口を開く。


「長期戦になさいますか?」

「……いや、短期決戦だ。最初から全力でいく」

「ご一考を。まずは、敵の士気を鎮静化させる方が先決ではないですか?」

「鎮静化しなかったらどうする?」

「……」

「こちらにも時間が余っている訳ではない。また、帝国側の情報がすべて揃っている訳ではない」

「何かを待っていると言いたいんですか?」

「……」


 恐らくは、『四伯』のミ・シルだろう。あの軍神は、いくつもの劣勢をことごとく跳ね返し、常に戦の勝利をもたらしてきた。こちらが侵攻を開始したという報が出れば、即座に馬を走らせ予測よりも早く到着する可能性は高い。彼らはミ・シルの助力を頼りに気力を振り絞っているのだと、ギザールは推測した。


 もちろん本音を言えば、一人の軍人としてミ・シルと手合わせをしてみたい。しかし、それはすなわちディオルド公国にとって不利益をもたらす。


「あちらが『耐える』ことで勝機を見出しているのならば、中途半端な攻勢は逆効果だ。それなら、全身全霊の力をもって完膚なきまでに叩き潰す」

「……了解しました」


 ギザール将軍は手を挙げて、兵たちを進軍させる。


 まず、弓兵が弓を射た。そして、歩兵が城郭を昇り出す。しかし、負けじと帝国兵が弓を射て阻止する。正午までは、互いに熱気を奮う膠着状態が作られる。


「よい兵たちだ」


 あの異常な熱気に踊らされず、指揮系統の指示に従っている。それは、厳しい訓練の賜物で、巨大な領土を誇る帝国の名に相応しいものだった。


 しかし、兵の練度で言えば、そこまで劣ってもいない。ディオルド公国は、平均的には帝国の軍人たちの後塵を拝すかもしれないが、兵科に特化すれば彼らをも凌ぐ。


 騎馬隊を率いるニデル騎団長、強鎧隊を率いるゾナン鎧団長、弓隊を率いるコハナワン弓団長、歩兵隊を率いるノユダタ歩団長。それぞれ、得意な兵科に特化して訓練を積んできた。


「……」


 にもかかわらず、戦況としては劣勢だ。やはり、あちらの士気が高い。


「将官同士を出させますか?」

「……いや。まだ、早いだろう」


 確かに、魔法使い同士の一騎打ちは戦場において士気を大きく逆転させる。しかし、帝国側の将官には、未知数の者が存在する。


「確か、あのピザ……なんとか中尉はヘーゼン=ハイムと言っていたな」


 少尉格ながらに、戦闘部族であるクミン族との停戦協定を成功させた。その所業は、まさしく至難の業だ。


 帝国とクミン族との間にどれだけの血が流れたか。その歴史から見れば、交渉のテーブルで即殺し合いが行われてもおかしくない。


 しかも、相手は『青の女王』と謳われるバーシアである。小部族ながら、個人の実力では大将軍級ではないかとディオルド公国では噂になっていた。


 また、クミン族は強者を認める傾向が強い。停戦協定成立にあたって、どの程度の実力を持っているかを試すため、戦闘行為が発生したことは容易に想像がつく。それにも関わらずヘーゼンという者は生き残った。


「現場、戦場で目立っている魔法使いはいるか?」

「魔法使いではありませんが、ロレンツォ大尉の横にいる戦士が異様ですね」

「異様?」


 ギザールが、その方向を向くと人の倍を超えるほどの巨体が大弓で次々と兵たちを射抜いていた。


「確かに、あの膂力は脅威だな」

「ロレンツォ大尉は、いつ・どこであのような人材を獲得したのか」

「……」


 ロレンツォ大尉の優秀さは、ディオルド公国にも響いている。有能な指揮官で、人望がある。そう言う上官は得てして有能な部下がつくものだ。


「……もしかすると、ヤツがヘーゼン=ハイムかもしれないな」

「見たところ、魔法は使えないようですが帝国将官として採用されるでしょうか?」

「わからん。しかし、あれだけの武芸と膂力があればあり得ない話ではない」

「……」


 夕暮れになり。各々の団がそれぞれ兵を引こうとした時。息を切らしながら血相を変えた兵が走ってきた。


「どうした?」

「はぁ……はぁ…… コハナワン弓団長が……戦死なさいました」


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