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訓練


           *


 翌日の午後、ジオス王はへーゼンと共に訓練所へと向かった。午前は、案の上、トマス大臣とドグマ大将から猛反対され、その説得に終わった(結局、納得はされずに、議論は夜に持ち越しとなった)。


 ごく一部の信頼ができる臣下以外には、このことは伝えてはいない。敵にも味方にも驚きをもって受け取られることこそが、この作戦の重要なポイントだ。先にバレたら意味がない。


「結構、頑なだったな」

「忠臣と言うのは、そう言うものです。彼らの優先順位は、あくまでジオス王の命にあります。だから、私とは衝突するのです」

「ははっ、貴殿は私の命を何とも思っていないからかな?」


 ジオス王は冗談めいた口調で笑う。


「優先順位は高いです。あなたが死ねば、ノクタール国の後継者がいなくなる。また、あの愚王を擁立せねばならなくなるし、いろいろと計画が崩れる」

「どういう計画かは聞いても教えてくれないのだろうな」

「いずれ。だが、今はこの戦に勝利せねば先はありません」


 へーゼンの言葉にジオス王は頷く。


「さて、早速始めましょうか。魔杖は持ってきましたね」

「ああ」


 ジオス王は自身の手に魔杖を構える。豪奢な宝飾が施された切れ味の鋭そうな長槍の形をしている。


「銘を飛燕ノ槍(ひえんのやり)という」

「素晴らしい業物ですね。等級は?」

「3等級だと聞いた」


 そう言って、ジオス王は軽く飛燕ノ槍(ひえんのやり)を振るう。すると、燕の形をした斬撃刃が飛翔し、飾っていた人形を貫いた。


「放った後に、自分の意志に応じて、軌道を変えることができる。敵の動きに合わせて追尾させることもな」

「汎用性の高い魔杖だ。威力も申し分ないです。あとは、どれだけ実践をつめるかですね」


 ヘーゼンはそう言って、一人の男を呼び出す。スキンヘッドの若い青年だ。赤い瞳が特徴的。至るところに刻まれた傷が、この男の狂気的暴力性を如実に表していた。


「何者だ?」

「クシャラという元タラール族の首長です。捕らえて奴隷として契約しました。この男は一時的に異常な回復力をもたらせる魔杖を持ってます。実践の訓練では、私もある程度本気でいくのでね」

「……」


 ジオス王はクシャラの痩せほそった身体を見た。元々は屈強な身体だったのだろうが、奴隷に身を落としたことによる心身の喪失が影響しているのだろうか。今にも倒れそうなほどフラフラしている。


「負ければ悲惨な未来が待っているのですよ。特に王族は」

「わかっている。責任から逃げるつもりはない」


 これだけイリス連合国をかき乱したのだ。一族は全員処刑。ジオス王は民の前で大国に逆らった無謀な愚王として磔にされ、汚名と共に史に刻まれるだろう。


 ジオス王はクシャラに近づき、頬に手を当てる。


「顔色がかなり悪いな。キチンと食べさせているか?」

「もちろん。ただ、魔力を回復させるために劇薬を投与したので、精神が若干蝕まれてます」

「容赦ないな」

「今はやってもらわなくてはいけません。奴隷であれば限界ギリギリまで酷使させるのは当然のこと」

「……」


 ヘーゼンはこともなげに答える。以前であれば、その行為に激しく抵抗を覚え反論していただろう。しかし、今はどうしても、そんな気にはなれなかった。


 恐らく、自分は変わったのだろう。


 目の前にいる黒髪の男は全てを壊し、また、新たなものを構築していった。それは、ノクタール国の体制のみならず、物事の価値観までも。


「さて。雑談は終わりです。始めましょう」

「わかった」


























「では、まず。あなたには死んで頂く」

「えっ?」


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