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アウラ秘書官


          *


 エヴィルダース皇太子派閥の第2秘書官のアウラは、天空宮殿に到着するや否や、その足でドネア家の屋敷に向かった。


 そして、道中の馬車内で合流した部下のレイラクに対し、速やかな指示を飛ばす。


「ギリギリまで同盟決裂の手続きを遅らせろ。エヴィルダース皇太子にバレない程度にな」

「……よろしいのですか?」

「戦がどう転ぶかわからない」


 現地でヘーゼン=ハイムを見なければ、むしろ、手続きを早めていただろう。早計な判断は危険だと肌で感じた。エヴィルダース皇太子のプレッシャーも強くなるだろうが、ここは歯止めをかけるべきなのだ。


「しかし、先日『ヘーゼン=ハイムが敗北した』と言う報も飛び交っております」

「聞いている。だが、ブラフの可能性もある」


 そして、この出来事は、以前に説明を受けた戦略にマイナスな影響を及ぼさない。いや、むしろ絶妙な塩梅で調整されていて気持ちが悪いくらいだ。


 ヘーゼンの作戦は、超短期決戦での決着。より明確でクッキリと明暗が分かれる場面が、そう遠くない未来で出てくるだろう。


 その時に、エヴィルダース皇太子がどう上手く立ち回れるかが重要なのだ。


「ヤツの思惑に乗るのは癪だが、仕方がない」


 選択肢を増やす必要があるとアウラは確信した。ヘーゼン=ハイムがイリス連合国を打ち破った時の戦略が必要だ。


 そして、そうなれば破格級の昇進。とてつもない褒賞。平民出身の若手将官では考えられない爵位が授与されるはず。


 側近のレイラクは納得し難いようにつぶやく。


「……にわかには信じられませんが」

「勢いのある国とは恐ろしいな。おおよそ、イキのいい新興国は潰したと思ってきたが、ノクタール国が出てきた」


 次の大規模な戦に勝てば、イリス連合国は瓦解。周辺国からも領地を削られ出すだろう。その時に帝国が後塵を拝さぬように、戦略を考えなければいけない。


 30分後、ドネア家の邸宅へと到着した。出迎えてきたのは令嬢のエマだった。本当は当主のジルバと話をしたかったが、不在にしているとのことで、急遽、彼女との会談を予約した。


 こちらには、先日口聞きをした恩がある。今回はそれを使わせてもらった形だ。


「ど、どうなさったんですか? こんなに早朝に」

「……」


 エマはびっくりしたような表情を浮かべ出迎えてくる。可愛らしい容姿。可憐な佇まい。一見すると名家の箱入りお嬢様だ。だが、アウラは警戒心を崩さない。


 この女性は、ヘーゼン=ハイムの懐刀だ。


「申し訳ありません。ちょうどノクタール国に視察に行きましたので、そのご報告へと」


 アウラは、作り笑顔を浮かべて答える。


「えっ! ヘーゼンと会ったのですか?」

「ええ。エマ内政官に『くれぐれもよろしく』と言っていたもので、それを伝えに」

「……そうですか」


 彼女は嬉しそうな表情でつぶやく。もちろん、ヘーゼンはそんなことは言っていない。むしろ、『ドネア家を通じて皇帝に洗いざらいぶち撒ける』と非常に不穏な内容を口走っていた。


 重要なのは、どこまで話が進んでいるかだ。


「最近、ヘーゼン=ハイムとはお話をされましたか?」

「ま、まあ、伝書鳩デシトでは少し」

「なるほど。差し支えなければ、どのような内容か教えていただけますか?」

「その……最近の手紙は本当にくだらない内容です。主に、私の職場の悩みだったり、そんなことをツラツラと」

「……ほぉ」


 ブラフだ。そんな訳がない。ヘーゼン=ハイムは現在、壮絶な戦争を繰り広げている。そんな相手に、まさか、そんな相談をする訳がない。


「もし、よろしければやり取りしている手紙の中身を見せて頂けますか?」

「えっ!? そ、それはプライベートな内容でもの凄く恥ずかしいのですが」


 彼女は顔を真っ赤にしてうつむくが、これもブラフだ。明らかに動揺している。こんな修羅場な時に、ヘーゼン=ハイムがプライベートのアレやこれやを相談にのる訳がない。


 恐らくは、帝国内におけるエヴィルダース皇太子陣営の内情ではないだろうか。


「……駄目ですか? 困りましたね」


 アウラが念押しする。もちろん、この依頼に強制力はないが、ここは押す。ゴリ押しも一つの戦略だ。エマのようなお人好し相手には非常に有効に働く。


「うーん、うーん……ごめんなさい! やっぱり、恥ずかしいです!」

「……」


 だが、エマは深々と頭を下げ断ってきた。あくまで、プライベートのやり取りで押し通す気らしい。その様子が、あまりにも白々しいが、超名門のドネア家令嬢なので、押し通すことも難しい。


 さて、どう切り崩そうか。


 アウラはエマに向けて作り笑顔を向けた。

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