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中級内政官エマ(4)


 数日後、エマは部下たちを連れて、ダゴル執政官の元に向かった。彼の統治するドクトリン領は、かつてヘーゼンが内政官として赴き、歴史的な功績を叩き出した地である。


 執政官は大佐から少将級の階級が就任するポジションだ。すでに、上官同士の挨拶は済ませ、今回は実務責任者としての挨拶だ。若干緊張しつつ、トントンとノックをして部屋へと入る。


「初めまして。エマ=ドネアと言います」

「はいはい、聞いてますよ」


 ニコニコと。人の良さそうな表情の好好爺が出迎えてくれた。この人がドクトリン領のトップか。いかにも性格が良さそうな感じで、エマは好感を持つ。


「本日は、お忙しい中お時間頂き本当にありがとうございます」

「いえいえ。いいんですよ」

「……」


 ニコニコ。ニッコニコである。殺伐とした職場が多い中、この場所だけ別の時間が流れているようだ。


「本日、ドクトリン領の砂漠を緑化するという計画についての説明をさせていただきたく思います。不詳ながら私、エマ=ドネアが実務責任者として務めさせて頂きます」

「……なるほど」

「概要については、こちらにまとめさせて頂いております。どうぞ、簡単に目を通してーーっ」


 真剣。一文字足りたも漏らすまいという鬼気迫る表情で書類を眺めるダゴル執政官。その後、エマが説明の補足をするが、羊皮紙に書きまくる。一言一句聞き逃すまいという気合がもの凄い。


「あの……議事録でしたら後日、部下に出させますので」

「いえ。情報は一刻も早く現場に伝えなければなりません。最終的な意思決定をするのは、現場の方々ですからな」

「……勉強になります」


 なんて素晴らしい統治者だろうか。執政官になると、中央との折衝が主な業務内容だ。必然的に、統治している領地の政策は丸投げ、また、現場の事情を無視して、面倒をぶん投げるなどが横行している。


 そんな中、現場の意思を最優先にして、また、現場に苦労をかけないという意識で行動できるなんて。


 そんな真摯な姿勢に圧倒されながらも、エマも負けじと説明をする。熱意には熱意で応えたいし、自分もまた、このプロジェクトに相当な準備をして臨んできたつもりだ。


 ひと通りの説明が終わった後、ダゴルは再びニッコニコの表情を浮かべる。


「いや、素晴らしい。さすがは、エマ内政官だ。話に聞いたとおり素晴らしい能力をお持ちでいらっしゃる」

「あ、ありがとうございます」


 手放しで褒められて、ついつい恐縮してしまう。これが、ドネア家だからなのかもしれないが、そんなことは考えても仕方ないので、素直にお礼をする。


「しかし、農務省の仕事は、素晴らしいですな。是非とも我が部下にも学ばせてやりたい」

「いえ、そんな……」

「もし、よろしければ、私の秘書官をそちらに派遣させてもらえませんか? それにより、互いの情報共有も捗ると思いますし」

「それは、願ったり叶ったりですがいいのですか?」


 エマは思わず尋ねる。こちらとしては非常にありがたい申し出なのだが、それでダゴル執政官の仕事が滞ってしまうのは申し訳ない。


「ははは。確かに優秀な人材をただ渡すだけであればマイナスになる。もちろん、エマ内政官の部署からも一人頂ければと思います。等価交換というやつですな」

「な、なるほど」


 納得はした。将官同士の応援の受け渡しは、頻繁に行われている。現地の情報が豊富な秘書官を派遣してくれるのは、ものすごくありがたい。


「秘書官のジルモンドと言います。よろしくお願いします」


 その時、ダゴル執政官の側にいた秘書官が深々、と挨拶をする。大分若いにも関わらず、執政官の公設秘書官……見た目と雰囲気の印象だが、相当なキレ者のようだ。


「エマ=ドネアです。よろしくお願いします」

「早速ですが、情報共有のため数点質問させて頂いてもよろしいですか?」

「は、はい」


 それから10分ほど意見交換をしたが、その間、密かにエマは焦っていた。


 この人、相当仕事ができる。


 質問も非常に的を得た急所をついている。ドクトリン領に対する理解も深く、非常に勉強になる。かなり優秀な内政官だ。


 出すなら、こちらもエース級を出さないといけないが、そうなるとこちらのキーマンもいなくなってしまうので、まずい。


 そんな風に悩んでいると、ダゴル執政官がニッコニコの表情で口を開く。


「もし、よろしければ私に選ばせてもらってもいいかな?」

「えっ?」

「そこのマルナール内政官など、優秀そうでいいすな」

「えっ! ま、マルナール内政官ですか?」


 まずい。


 まんずい。


「駄目ですか?」

「い、いや。駄目というかーー」

「是非! 是非、ダゴル執政官の下で勉強させてください!」

「……っ」


 エマの言葉を遮って、マルナールが食い気味に応じた。


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