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中級内政官 エマ(2)


 エマは言葉を見失った。めちゃくちゃ堂々と『やってません』宣言。1ヶ月前からお願いしていた。進捗を小まめに確認した時、『やってまーす』とか、『大丈夫でーす』とか言ってて、猛烈に不安ではあったが。


「……なんでやってないんですか?」

「あ、やりきれませんでした。能力がないもので。申し訳ないでーす」

「くっ……」


 やる気がないのは知っていたが、ここまでとは。さすがに、上官から落ちた部下に対し、逐一報告を入れさせるのは気が引けたので、あまり細かく監視はしてなかった。


 完全に失敗した、とエマは席に戻って頭を抱える。


 ……いや、とにかく、落ち込んでいる暇も腐っている時間もない。マルナールが遅らせた仕事に取り掛からないと間に合わなくなる。


 エマは黙々と仕事に取り掛かる。


 そんな中、上官のライリーが席を外すと、マルナールは、後輩のガタメンにちょっかいを出し始める。以前、指摘されて少しの間は控えていたが、やはり生粋のパワハラ気質らしい。


 ちょこちょこと目を盗んで、先輩と後輩というヒエラルキーを利用して、ダル絡み以上パワハラ未満を繰り返す。


「ってかさ。お前もさ、こんな小娘が上官だったらダルいよな。

「い、いや僕は別に……」

「嘘だろ? だって、あいつさ。お前よりかなり歳下なんだぜ。そんなやつが、少し仕事ができるくらいで威張って。腹立たねぇ?」

「……い、いえ。むしろ、ところどころフォローして下さってるので助かってますけど」

「あ? お前さぁ……あんなヤツから助けられてるの? ダサっ」

「……」


 聞こえるか聞こえないかくらいのところで、陰口を言ってくる。性格が悪い。普通に性根が腐っている。


 どストレートに性格が悪く、螺旋状に捻じ曲がり過ぎて、逆に強靭な性根となっているヘーゼンとはエラい違いだ。


「はぁ……」


 資料は自分が作るからいいとしても、今後の部下への管理は不安だ。マルナールは全然戦力にならないし、他の部下にとってもかなりマイナスだ。


 それを思うと、仕事の質を全体的に押し上げるのは、どれほど難しいことかと思い知らされる。


 例えば、自分が部下の分まで仕事をしたとしても、その分だけ仕事をやらないマルナールみたいなヤツが出てきて、全体の総量は増えない。


 そうなってくると、サボっている将官のために仕事をしているのかと、周囲のモチベーションまで下がってくる。


『そんなヤツ、排除すればいいじゃないか』


 どこかの誰かさんから、そんな声が聞こえてきそうだ。しかし、そんな訳にもいかない訳で。職場の同僚を排除するのは、実は凄く大変だったりする。


 現に、上官のライリーも、かなりの骨を折ってマルナールを降格処分にしたくらいだ。上級内政官の彼がそうなのだから、中級内政官のエマなどは、だいぶ精神と労力を消費するだろう。


 深夜2時。マルナールに課した仕事1ヶ月分を終えて、自身の邸宅へと帰宅する。他の部下たちも手伝うと言ってくれたのだが、彼らは彼らで自分たちの仕事を持っているので、無理もさせられない。


 一方で、マルナールは定時ダッシュで帰宅。


 聞くところによると、完全に将官としての出世を諦め、自身の領地収益を向上させるため、領民たちに悪政を敷いているらしい。聞けば聞くほど救いようのなき輩だ。


「……はぁ」

「エマ! 久しぶり」


 トボトボと歩いていると、後ろから男の人の声がした。振り向くと、快活な青年が笑顔で近づいてくる。金髪でシュッとした輪郭と鋭い瞳。エマにとって、この顔は忘れようとしても忘れられない。


「セ、セグゥア! どうしてここに?」

「命令されて、仕方なく。まったく、人使いが荒いよ」


 爽やかな好青年は、はにかんだような笑顔を浮かべる。


 セグゥア=ジュクジォ。テナ学院に在学していた頃、ヘーゼンの奴隷となった同期の男である。


 終身雇用の契約魔法を結び、一切の行動に選択権を持たない。結婚や進路など、全ての意思決定について自由意志を持たないキツめの奴隷である。


 ヘーゼンと決闘して敗北(実際には戦うことなく、友人の裏切りによって敗北)。17歳という、一般的に一番楽しい時期と言っても過言ではないときから課せられた、非常に重い十字架を抱えて生きる奴隷である。


 彼もまた2年間の間、ヘーゼンによって鍛え上げられていたため、同じく帝国将官として同期の配属となった。


「それで? 今日は何をしにきたの?」

「ああ。なんか、クズで困ってるんだって?」































「ご主人様から伝言だ。『本当にすまないね。僕は少し手が離せないから、奴隷にやらせる』」

「……っ」



 

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