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アウヌクラス王


「くそ! 規格外のバカめ!」


 諸王会議後。自室にいたヤアロス国のアウヌクラス王は、悔しげに吐き捨てる。まさか、あのような暴挙に出るなんて思わなかった。


「まったくですな」


 側にいたラスダブル王が、相槌を深々と打つ。


「信じられない暴挙ですよ。狂ってるとしか思えない」


 クゼアニア国がノクタール国に敗れるのは、イリス連合国にとっては致命的な傷をもたらす。少し考えれば、わかることだ。


 現場の将軍たちが送った伝書鳩デシトも緊急事態だと考えれば、容認して然るべきだ。翌日に全軍撤退したことは予想外だったが、あの優秀な将軍たちがそう判断したのだからそれなりの理由はあるはずだ。


「まさか、自身の腕を切り落とすとは……取り乱すにもほどがある」

「ええ。まったくです」


 こちらは、シガー王の頭を下げさせて、イリス連合国盟主としての求心力を低下させればそれでよかった。それにも関わらず、2人の有能な将軍が殺されたのは明らかな痛手だ。


 しかし、皮肉にも。


 あの狂気的な行動と迫力に、諸王の面々が圧倒されて言葉が出なかった。そして、それは短期的にはプラスに作用している。


 重要拠点を落とされたとは言え、クゼアニア国の力は今もなお強大だ。シガー王がトチ狂って、味方を攻め込んでくる事態になれば、それこそイリス連合国自体が消滅してしまう。


「……まあ、いい」


 あの無能は、もう終わりだ。あとは、ノクタール国に、これ以上我が国土を削られないようにすればいいだけだ。


「これで、次期盟主は、アウヌクラス王に決まりましたな」

「いやいや、私など非才の身で」

「何を仰る。これほどの国難を、あのボンクラが乗り越えられるはずがない。諸王らも全員、あなたに呼応するでしょう」

「……」


 ラスダブル王の言葉に、アウヌクラス王は内心でほくそ笑む。


「とは言え、あの無能にクゼアニア国を任せるのは危険ですな」

「なに……盟主の座を降りた時に、諸王会議で不信任決議を起こせばよいだけです」


 恐らくは、満場一致でシガー王の譲位が決まるはずだ。後任の息子は確か8歳ほどだったので、当面は摂政政治になるが、手を回しておけば各々の大臣も従うだろう。


 アウヌクラス王は、すぐさまグライド将軍を呼び出した。


「話は聞いてるな? シガー王(あのバカ)の指揮は不安だろうが、ともにクゼアニア国の防衛にあたれ」

「……はっ」


 グライド将軍は跪いて返事をする。


「全ての命令を盲目的に聞く必要はない。なんせ、有能な将軍を2人も殺すような異常なバカだからな。無理な命令は聞かずに帰ってこい」

「かしこまりました」


 言葉少なめに、グライド将軍は返事をして、去って行く。


 それから、ひと通りラスダブル王と会談を行った後、自室で一人になったアウヌクラス王は満足そうに笑みを浮かべる。


「しかし……まさか、イリス連合国盟主の座が、あちらから転がり込んでくるとは」


 つい先日まではあきらめていた。当然、シガー王は無能だったが、大規模な戦もなかったので、目に見える失態は少なかった。


 なによりも、先代王の影響力が色濃くあり、今年の選定会議も、慣例にしたがってシガー王に入れると言う雰囲気は強かった。


「ヘーゼン=ハイム様々だな」


 ノクタール国がここまで攻め込むことができたのも、この強大な魔法使いのお陰なのだろう。話を聞く限りは、相当に規格外の実力を持っているらしい。


 しかし、それでもグライド将軍が負ける姿を想像できない。数十年以上、戦場を駆け巡りいずれも勝利に導いてきた守護神だ。


 それに、今回はクゼアニア国だけではない。ヤアロス国も、その他の国も、すでに準備は開始している。ジオウルフ城の周辺はイリス連合国の国家で囲んでおり、ノクタール国がこれ以上の進軍をすれば、諸王の軍勢も加わり、攻勢に転じることもできる。


「ククク……」


 相手はクゼアニア国に特化して侵略を行ったため、領土が長く伸びてしまっている。それは、イリス連合国にとっては、格好の的だ。


 その時、アウヌクラス王が閃いたように口ずさむ。


「いや、むしろ今のうちに……ヤアロス国だけでノクタール国を攻めるか」


 連合国軍としてでなく、ヤアロス国単独で奪還すれば、クゼアニア国の領土を切り取ることもできる。諸王への口実など、なんとでもなる。クゼアニア国防衛のため、先手を打ったとでも言えばいい。


 防衛と攻略の境界線などあってないようなものだ。要するに、名目さえしっかりしていればいいのだ。


 ジオウルフ城、ダゴゼルガ城、ロギアント城まで落とせば、ヤアロス国の勢力は完全にクゼアニア国を凌駕する。


「ククク……シガー王(あの無能)が発狂するところが目に浮かぶ」


 アウヌクラス王は歪んだ表情で笑った。




 


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