諸王
数日後、イリス連合国は、緊急諸王会議を開催した。盟主のシガー王の顔色が優れず、憮然とした表情を浮かべている。
「で? 本日の議題は?」
ヤアロス国のアウヌクラス王は、余裕の表情を浮かべて首を傾げる。
「……じ、ジオウルフ城とダゴゼルガ城の2城を取られた。これ以上の侵攻は、イリス連合国の根幹を揺るがしかねない。イリス連合国の全軍を持ってことにあたる必要がある」
「それは、貴国の防衛に、我ら諸王の力が必要だと?」
「……っ」
まるで、自分が諸王の代表であるかのように、アウヌクラス王は聞き返す。シガー王は、湧き上がる怒気を抑えながらも、大きく深呼吸をして小さく頷く。
「……ああ」
「なぜですか? ノクタール国ほどの弱小国に、貴国ほどの大国がなぜ、こうも簡単に敗れるのですか?」
「だ、だから言ってあるではないか」
シガー王は弱々しげにつぶやく。
「ヘーゼン=ハイムという魔法使い。報告によると、大将軍級の魔法使いだと言う。だから……」
「ああ。。ねえ、ラスダブル王」
「はい」
二人は顔を見合わせて、呆れたように笑う。
「……どう言うことだ?」
「おや? ご存じないのですか?」
アウヌクラス王は勝ち誇ったように、シガー王の前に手紙を差し出す。
「伝書鳩で要請があったのです。近隣にある我々の城に救援を求めるという内容。貴国の将軍から直々に、直接我々に当てたと言うことですな。ご存じありませんでしたか?」
「……っ」
シガー王は、一言も発さずにその手紙を見つめ続けていた。目を充血させながら、食い入るように、顔を酷く真っ赤にしながら。
「いや、我々も戸惑ったのですよ。まさか、シガー王を介してではなく、直接現場から悲鳴が出るなんて」
「……」
臣下にも信頼されてないのだろう? シガー王には、そう聞こえた。
「現地の将軍たち直々の直訴では、我々も動かざるを得ない。当然、戦の準備をするつもりだったのです。しかし、その翌日にはジオウルフ城から全軍撤退をしております」
「……」
「率直に言って、情報管理がめちゃくちゃだ。貴国の防衛体制はどうなってますか? あれだけの大軍を擁しながら、ことごとく敗走するなどあり得ません。指揮系統が大分混乱しているのではないですか?」
「……」
「それとも、貴国の将官たちの質が落ちているとか」
そこまで言うと、諸王の面々も『さすがにまずい』と神妙な面持ちになる。しかし、アウヌクラス王は口撃をやめようとはしない。
「例えば、我が国のグライド将軍ならば、こうはならないでしょうな」
老王は誇らしげに言い放つ。一方、シガー王は先ほどの表情とは一転して、生気が抜けきったような様子でつぶやく。
「だから……言ったのだ。私は最初からグライド将軍をもって防備を図った方が良いと」
「原因が違いますよね?」
「……」
「ヘーゼン=ハイムと言う魔法使いが強大なのではない。貴国の将官たちが、ノクタール国のような弱小国に著しく劣っていると言うことだ。そして、将官たちの能力が低いのは、当然、我々為政者の責任だ」
「……」
「なぜ、こんなことが起きているか。先代のビュナリオ元王では考えられなかった。偉大なるあの方は、クゼアニア国はおろか、イリス連合国の将官の質も押し上げた」
アウヌクラス王は得意気な表情で、高らかと演説をする。他の諸王は、固唾を飲んで2人のやり取りを見守っている。
「……どうすればいいと言うのだ?」
「責任と誠意を見せて欲しいですな。イリス連合国の盟主として、我々に対し」
「わかった」
シガー王はボソッとつぶやき筆頭大臣のレインフィに耳打ちして指示を出す。
数分後、ミュサベル将軍とラグドン将軍がやってきた。シガー王は無表情で彼らに近づき、2人に向かって指示を出す。
「跪け」
「……はっ」
彼らは言う通りに、跪き頭を垂れる。その様子を目にしたアウヌクラス王は、呆れたように笑う。
「はっ! まさか、敗軍の責任者からの謝罪でこと足りるとでもーー」
ザシュ。
ザシュ。
「はっ……くっ……」
「これでいいか?」
返り血に塗れたシガー王は、両断したミュサベル将軍とラグドン将軍の首をアウヌクラス王に投げ捨てる。
「お望み通り、無能を2人処分した。これ以上を望むならば、まずはヤアロス国にでも攻め入ってみようか?」
「しょ……正気ですか!? そんなことをすればーー」
アウヌクラス王がそう言いかけた時、シガー王が血塗れの剣を喉元に差し出す。
「ひっ……」
「あまり我が国をナメるなよ。援軍要請を断るならば、イリス連合国の背信とみなす」
「……」
「他の諸王の中に、異存のある者は?」
「……」
重苦しい沈黙があたりを支配する。
「誰もいないようだな。では、会議は終わりだ」
シガー王は歪んだ笑みを浮かべながら颯爽と会議場を後にした。




