表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

390/700

医務室


 医務室にて。素っ裸で眠らせているナンダルを前に、ラスベルとヤンは立たされる。


「……っ」


 知り合いの身体は、めちゃくちゃ生々しい。


「どうした、ラスベル。集中して僕の指を見ろ」

「……っ」


 ナンダルの骨盤付近に指を置きながら、注意する。その漆黒の瞳は、なんの感情も抱かず、ただ冷徹に患者の身体を見つめている。


「姉様、コツは『人をゴミのように見る事』だそうですよ」

「……っ」


 ニッコリ。6歳前後の幼児とは思えない恐ろしくドライなセリフを、なんて無邪気な笑顔で吐くのだろうか。


 今後、異常者サイコパスな教育を受けたこの子は、いったいどんな子に育っていくのだろうか。この妹のような年頃のヤンが、心配でならない。


 そんな中、なぜか、その場にモズコールが同席していた。現在は、ノクタール国の首都で歓楽街のプロデュースをしているはずだが、召集があったのだろうか。


 そして、彼は、ラスベルの肩をポンポンと叩きながら(触らないで欲しかった)、ヘーゼンに向かって言葉を発する。


「そうは言っても、年ごろの女性には少し刺激が強すぎるのではないかと」

「そうか? 脳のスイッチを変換すればいいだけなのだが」

「な、なるほど。しかし、それは、我々常人にはあまり簡単なことではないと思われます。少なくとも、それを覚えるまでは別の対処が必要なのでは?」

「……っ」


 屈辱。自分を常人と称する変態サイコパスに、同じ括りにされた。そして、異常者サイコパスの無茶振りに対して、変態サイコパスに擁護された。


 恐ろしい。この大陸は限りなく、恐ろしく広い。


 そして、なぜか変態サイコパス異常者サイコパスの説得に心動かされようとしている。


「ふむ……人体の構造を覚えるのは、全裸が最適なんだがな」

「いいものがありますよ」 

「……っ」


 隣にいたモズコールが答え、おもむろに出してきたのは、キワキワの紙パンツだった。彼は手慣れた様子で、ナンダルに装着をする。


 ぎゃ、逆に生々しくて気持ちが悪い。


「これで臀部あたりを隠せるので、目に毒と言うことはないでしょう」

「そうか。これで、ラスベルがいいならやろう」

「……っ」


 いいわけがない(絶対にイカれてる)。駄目だ。このままでは、おかしくなってしまう。即座に脳のスイッチを切り替える必要があった。


 その瞬間、ラスベルは超高速で頭を回転させた。尋常ならざる集中を発揮して、人の身体を見てもなにも感じないような精神にまで至る。


「……もう平気です。やりましょう」

「流石、僕の弟子だな」


 ヘーゼンはそうつぶやき、悪穴あっけを瞬時に特定して指で射抜くように叩いていく。それは、ラスベルが数時間かけても見つけられなかったものだ。


「患者の数をこなさないと、経験値は増えていかない。魔医の経験は、戦場においても宮仕えにおいても、暗殺者に襲われた時にも生きる。時間が空いた時には、訓練所に行くといい。彼らはいい治験体モルモットになる」

「で、ですが……失敗したら……」

「それがいいんじゃないか」

「……っ」

「もちろん、失敗しないようにと言う気構えは必要だが、失敗を経なければ上達はしない。患者を死なせた数が多ければ多いほど、魔医として上達する」

「……」


 理屈はわかる。しかし、どこかでそれを割り切れない自分もいる。一方で、いったいヘーゼンは何人の患者を死なせてきたと言うのだろうか。


 歳はヘーゼンとそこまで変わらない。だが、才能などでは片付けられないほどの差を感じる。特筆すべきは、その圧倒的な経験値だ。ラスベルが出会ってきたどの魔法使いよりも、あらゆる知識が広く深い。


「僕は君とヤンにあらゆる経験を伝えるつもりだ。しかし、それには覚悟がいる。必死についてきてくれれば、帝国における君のキャリアに決してマイナスにはならないと思う」

「……わかりました」


 ラスベルは表情を引き締めて、頷いた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ