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ジオス王


 政務室は、まるで、戦場のようだった。真剣なる熱気。殺伐としつつも、決して互いが感情的にならずに建設的な議論がなされている。


 話している政策も、極小国とは思えないほど洗練された内容だ(ケッノを除き)。


「今後、イリス連合国からの攻撃を受け続けなくてはいけない。そのためには、内政の拡充と他国との外交が不可欠です」

「……」


 極小国とは言えど、決して侮れないとアウラは肌で感じた。未成熟国家の勢い、新鮮な意見、また、下の意見を積極的に聞き入れる姿勢が感じられた。


 長年、帝国に属していた分、酷く新鮮だった。


「主城へと案内してくれないか? 王に謁見を願いたい」


 為政者の器を見てみなければ、まだ、なんとも言えない。ヘーゼン=ハイムは所詮はよそ者。ノクタール国が本気でイリス連合国を滅ぼすという意思があるのか。その点を見極めたいところだ。


「構いませんが、ジオス王ならば、この城にいますよ?」

「なっ……」


 アウラは言葉を失った。一国の王が、最前線の城にいる。そんなことは帝国では、まず、考えられないことだ。

 

「ついてきてください」

「玉座の間か?」

「そうですね」


 そう言いながらヘーゼンは先導する。案内されたのは、先ほどの政務室からそう離れていない、同規模の部屋だった。


 まさか、この部屋に王が?


「ふざけているのか? どこが、玉座の間だ?」

「王がいらっしゃる場所が、玉座の間。私もジオス王も、そう考えてます」

「……」


 王との意思疎通もできていると言いたい訳か。しかし、それは為政者としてのカリスマを損なうことにもなりかねないか。


 部屋に入ると、衝撃的な光景が並んでいた。6歳児のほどの子どもが、大の大人たちと意見を交わしている。


 いや、むしろその場を回している。


 その視線に気づいたのか、こちらに対しニパっと無邪気な笑みを浮かべて近づいてくる。


「初めまして。ヤンと言います。ヘーゼン=ハイムの筆頭秘書官をしてます」

「……っ」


 こ、こんな子どもが筆頭秘書官!?


「……あ、アウラ=ケロスです。エヴィルダース皇太子陣営の第2私設秘書官をしてます」

「えっ!」


 ヤンと呼ばれた少女は驚き、ヘーゼンの方を眺める。


「不肖の弟子です。筆頭秘書官もですが、内政部門の統括、また軍部との調整役をさせてます」

「……っ」


 この子どもが内政部門のトップ!? アウラは顎が外れそうなほど驚く。いくら、ヘーゼンの弟子とは言え、あまりにも規格外……と言うか子どもだ。


「酷いですよね? すーは、人使いが荒すぎるんです」

「普通だろ?」

「普通じゃない!?」


 少女は、ガビーンと驚愕な表情を浮かべる。そこから、ひと通り高度な会話の応酬があり、やがて、ヤンと名乗った少女は、クリクリの目をまん丸にしながらアウラの方を向く。


「ところで、なぜノクタール国にいらっしゃったんですか?」

「現地視察だよ」


 ヘーゼンが代わりに答えると、ヤンはジッとアウラの瞳を見つめる。


「……」


 なんだろう。ヘーゼン=ハイムのように、何もかも見通されているような気分になる。


 こんな子どもが。


「……なるほど。すー、全部見せるんですか?」

「可能な限りな」

「わかりました。じゃ、すぐにシュレイさん呼びますね」


 黒髪の少女は、お辞儀をして部屋を出て行く。その側には、褐色の剣士が欠伸を浮かべながらついてきている。


「あの護衛……どこかで見たような」

「ああ、気づきましたか? ラシードですよ」


 !?


「あ、あの竜騎兵ドラグーンのか!」

「よくご存知ですね」

「……ふざけるなよ」


 現在、帝国が最も欲しいとされる特級戦力リストに名を連ねる者の一人だ。大陸全土が、喉から手が出るほど欲しいにも関わらず、頑としてどの国家にも属さない放浪の剣士。


「グライド将軍とラシードをぶつけるつもりか?」

「それも、面白いですね」

「……」


 まさか、救国の英雄グライドに対抗し得るとされる特級戦力が、この場にいるとは思わなかった。


「だが、広域的に攻められれば、どう対抗するのだ?」

「イリス連合国はそこまで一枚岩ではありませんよ。そこまで、大規模な攻勢を短期ではかけられないはずだ。それまでは、なんとか耐えて見せます」

「……」

「っと。王に謁見でしたな。あと、数分ほどで来るはずですが……」


 そう言いかけた時、扉が開いた。


「こちらが、ジオス王です」

「……」


 そこにいたのは、若き青年だった。若干痩せているか。王と言うよりは、若き将官のような雰囲気でとてもではないが王族には見えない。


 紹介された青年はニコッと笑顔を浮かべる。


「ジオス王です。ようこそ、ノクタール国にいらっしゃいました。歓迎します」

「……はっ」


 アウラは片膝をつきながらも、内心ではかなり驚いていた。一方的に同盟の破棄を申し出たにも関わらず、激昂することもなく落ち着いて話しかけてくる。


「現状、ノクタール国にカリスマは不要です。ただし、彼は賢王の器だ」

「……」


 ヘーゼンは笑顔でそう答えた。


 

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