ルカ
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五星ノ爪には2つの能力がある。1つ目は、遠距離用の魔法攻撃。恐るべき貫通力を誇り、投擲武具としては異常な距離を叩き出す。
しかし、この魔杖の真価はもう1つの能力にある。
雷切孔雀に魔力を込めた瞬間、五星ノ爪と連動し、その刀身に向かって雷属性の魔法が走る。その速度・威力は、落雷に匹敵する。
さらに、雷切孔雀を起点とし、五芒星を描くことで、範囲的に雷属性の魔法が敵を縛る。
広範囲の捕縛魔法。
敵は完全に雷切孔雀の特性を把握していた。クシャラの前には常に死を恐れぬ護衛が立ちはだかり、相手の動きを止めなければ、魔杖を奪うことができない。
ギザールは、相手を仕留めるのではなく、あえて躱すように五星ノ爪を放った。相手に悟られぬように、さも慣れていない攻撃するように見せかけて、相手を残らず捕縛するような範囲にマーキング地点を散らした。
結果として。
身動きが取れないクシャラたちを、ドグマ族の戦士たちが捕縛した。
やがて、タラール族の族長候補であるルカが合流した。彼はクシャラとしばらく視線を合わせていたが、やがて、悲痛な面持ちで言葉を絞り出す。
「兄さん……」
「殺せ」
「……なぜだ? なぜ、タラール族を追い込むような真似を?」
「……」
ルカは問いかける。
クシャラのやり方は、いたずらに敵を増やすものだった。そこに未来などなく、ただ、自分たち以外の者を排除する。
そんなやり方が通じないことは、誰が見ても一目瞭然だ。それにも関わらず、クシャラは復讐のみに身を投じ、味方にもそれを強いた。
「ジブラ兄さんだって、こんなことは望んでいなはかったずだ」
「……殺せ」
クシャラは再びつぶやく。互いの視線が重なり合い、しばらくの時間が経過した。昔は、仲のよい兄弟だったと言う。
やがて、ルカは真っ直ぐな瞳で、クシャラに答えた。
「殺さない。俺は大首長になり、タラール族を救ってみせる」
「甘いな。そんなことで、部族をまとめられるとでも? ガロに勝てるとでも思っているのか?」
「まとめるんじゃない。勝つのでもない。タラール族は皆でまとまり、皆で共に生きていく」
「……」
そう断言し。ルカはギザールの方を振り返る。
「ついてきてくれ。これから、クシャラ兄さんを連れて、ガロ兄さんの下に向かう。もはや、タラール族の内輪争いをしている時ではない」
「やれやれ。人使いが荒いな」
「お互い様だろ? この後、ゴクナ諸島に我が部族を送り込むのだから」
「おうさ! 手伝った恩は返してもらわなきゃいけねぇな」
「……」
海賊のシルフィが威勢のいい声をあげる。こちらの能天気な陽キャは、誰の都合もお構いなしだ。ある意味で羨ましいなとは思う。
「ところで、頼みがある」
ギザールはルカに向かってきりだす。
「なんだ?」
「ガロが首長になるにしろ、お前が大首長になるにしろ、クシャラはタラール族に置いとけないだろう?」
「……ああ。追放することになるだろうな」
「……」
クシャラはあまりにも多く殺しすぎた。敵もそうだが、自身の意見に逆らう味方も皆殺しにした。大首長の肉親であろうと、遺恨の火は燻り続けるだろう。
その様子を眺めながら、ギザールはため息をついて答える。
「こんな猛獣を野に放つのか? 危険すぎるだろう。こいつらの身柄を預けてもらえないか?」
「……どうする気だ?」
「いい猛獣使いがいる」
ギザールはそう言って笑った。




