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ギザール


           *


「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……なんだって俺がこんな目に」


 険しい山道の中、ディアルド公国元将軍のギザールは文句を言いながら歩いていた。先導しているのはドグマ族の精兵たち。山育ちの彼らのペースには、ついていくのも一苦労だ。


「ううっ……守ってくださいよ! ちゃんと守ってくださいよ!」

「わ、わかったから袖を離せ!」


 怯えながらアウアウする眼鏡少女、シオンにまとわりつかれながら、タラール族の活動区域を歩き回る。すでに、ギザールの周囲には、ドグマ族の精鋭たちが十数人いる。


 すでに、何十回と交戦を繰り返し、遭遇次第、直ちに戦闘が開始される。ギザールの雷切孔雀らいきりくじゃくと言えど、先を取られたら負ける可能性もあるので、周囲の警戒は怠らない。


 目下、ドグマ族、ゴクナ諸島のシルフィ一派、タラール族の大首長候補ルカらと共闘し、同じくタラール族のクシャラの勢力を削っている。


「えっと……この地点から先へ行くと、クシャラの活動区域ですね。北へ行ってください」

「……」


 ギザールは、地図を見ながら解説するシオンの方をジッと見つめる。なるほど、地頭のいい子だ。襲撃に怯えてはいるが、周囲の状況を全て把握し、どの地点で敵が出没しやすいかを予測している。


 タラール族の戦士たちは、可能な限り生け捕りにしている。


 大半のタラール族は、クシャラの恐怖に縛られて従っている。捕縛した後、ルカと引き合わせて説得をすれば従ってくれる者はかなり多かった。


「でも……そろそろ気づいてますよ」

「わかっている」


 ギザールは神妙な面持ちで頷く。この数日間で、かなりのタラール族を捕縛した。別の場所で活動している海賊のシルフィ一派、タラール族の大首長候補、ルカらも同じだろう。


 そんな中、先導していたドグマ族の戦士、ラダが止まって息を潜める。


「いた。クシャラだ。ここから、4百メートルくらい離れたところだ」


 この戦士は鷹眼ノ印(おうがんのしるし)という魔杖を持っている。従属型の魔杖で、数十匹の鷹を自在に操って、その鳴き声で場所を把握する。諜報としてはかなり便利だ。


「ルカさんとシルフィの親分の居場所、わかりますか?」


 シオンが尋ねると、ラダは鷹に指示して探させる。


「いた。クシャラとは、どちらも俺たちと同じくらい距離が離れている」

「では、お二方に標的に近づくよう指示してください」

「わかった」

「俺たちも行くぞ」

 

 ギザールたちもまた、注意深く近づいていく。100メートル地点で、こちらが先に視認した。


 タラール族の首長候補筆頭のクシャラだ。


 スキンヘッドの若い青年だ。赤い瞳が特徴的。至るところに刻まれた傷が、この男の狂気的暴力性を如実に表していた。


「……なるほど」


 遠目からギザールはつぶやく。確かに強者特有の雰囲気がある。今までのように、雷切孔雀らいきりくじゃくで瞬時に仕留めるというわけにはいかなさそうだ。


 周囲の取り巻きも厄介だ。3人ほどだが、見ればわかるほど禍々しい魔杖を持っている。


「……ここで待て」


 ギザールはシオンとドグマ族のラダを残し、十数人のドグマ族と共に息を潜めて、標的に近づく。鷹眼ノ印(おうがんのしるし)があれば、あの2人に危険はない。


 逆にここからはギザールたちの方が、より襲撃に備えなければならない。鷹眼ノ印(おうがんのしるし)がないので、シルフィやルカとの交信もできない。


 後は、互いのフィーリングで連携を図っていくしかない。


「……」


 クシャラだけが明らかに無防備だ。まるで、狙ってくれと言っているような。雷切孔雀らいきりくじゃくの能力はバレてはいない。今、発動させれば首を取れそうな気もするが。


 ギザールが攻撃に躊躇していると、遠方から弓が放たれてクシャラの脳天に直撃する。途端に血飛沫が舞い散って敵は天を仰いで倒れた。


 恐らく、海賊シルフィが放った魔弓だろう。


 思いきりのよさがいい男だ。逆に、無警戒とも言えるが。見たところ、クシャラは即死だ。こちらの考えすぎかとギザールは安堵した。


 だが。



















「……っ」


 生きている。


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