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ラスベル


           *


 遡ること1ヶ月前。


『ゴクナ諸島をなんとかしろ』


 ゴレイヌ国に滞在する新任秘書官、ラスベルの下に届けられた一通の手紙。


 し、指示が雑すぎてよくわからん。


「……ナ、ナンダルさん。これって、なんだと思います?」

「まあ、その言葉通りの意味だと」

「……っ」


 蒼き髪の美少女は、愕然とした。なぜか、この痩せ細った商人は理解していて、遠い目をしながら、チャキチャキと準備を始めている。


 しかも、なんの躊躇もない。


 納得してないの、自分だけ!?


 先日、やっとのことで結んだゴレイヌ国との密約同盟。はっきり言って、大変だった。


 少し前は学生だった。ひたすら魔法の習練に明け暮れていて、交渉事の経験などもちろん皆無だ。そんな新人秘書官最初の仕事が、大臣級の面々と激しく議論を重ねることだった。


 当然、難航した。17歳の小娘になにがわかるんだ。話にならないなど、大分言われた。裏で凹んだし、傷ついたし、落ち込んだ。


 それでも、必死に喰らいついて、なんとかここまでこぎつけることができた。これで、意気揚々とヘーゼンに成果を持ち帰れる。そう思った矢先の無茶ブリだった。


 しかし、そんな戸惑いと憤慨を浮かべるラスベルをよそに、ナンダルはすぐさまゴクナ諸島に出発しようとする。


「さっ、行きましょうか」

「ど、どうしてそんなに平然としていられるんですか!?」

「ん? なんのことですか?」

「……っ」


 完全に迷いのない、虚ろな表情をしている。この恐ろしいまでに働く敏腕商人は、真っ直ぐな瞳で『ナゼワカラナイノカガワカラナイ』と言う表情をしている。


 ナンダルは恐ろしく優秀だ。


 ともに働いてみて、嫌と言うほど思い知らされた。ゴレイヌ国との要人に対し、彼女が無碍な扱いをされないよう根回しなどもしっかりと行なってくれた。


 だが、なにより労働量が桁違いだ。


 方々を縦横無尽に駆け巡り、部下たちに的確な指示を飛ばす。その間、手を動かして次々と書類を作成していく。


 ラスベルも自身の事務処理能力には自信があったが、それすら凌駕するほどの機敏な働きだ。果たして、どれほど仕事をこなせば、これだけの動きができるようになるのだろうか。


「でも、『なんとかしろ』って、いったいどう言うことなんですか?」

「なんとかするんじゃないんですか?」

「……っ」


 そ、それを聞いているのに。自分がおかしいのか、それともナンダルの感覚が麻痺しまくっているのか、ラスベルとしては圧倒的に後者だとは思うが、とにかくなんとかするしかないと言うことがわかった。


「聞くところによると、ゴクナ諸島の海賊、シルフィの親分が、ドルガ族の元に行っているそうです。その辺のところで理由がありそうですが」

「……なるほど」


 彼が不在の間に、同じく派閥を争っているブジュノアとペコルックを抑えろと言うことか。とにかく、現地での情報を一刻も早く集めなくては。


 そんな中、乾いた目をしたナンダルは、まるで同志を見るような瞳で、ラスベルの肩に手を叩く。


「多分ですけど、ラスベルさん。あなたに期待してるんですよ」

「き、期待?」

「あの人の指示が行き届かなくなってきた時に、どれだけの人材が上手く立ち回れるか試しているんです」

「……」

「ヤンにもよくやるんです。難題を投げかけながら、主体的に動いた時の働きを確認している。つまり、あなたの性格的な資質を見てるんだと思います」

「性格的な……資質」


 ラスベル自身は、若干内向的な性格だ。常にガンガン前線に出るというよりは、常に状況を分析して最適な答えを導き出す。


 だが、それではダメだということか。


「前にでると、失敗する確率も多くなる。だからこそ、前に出た方がいい。ヘーゼン=ハイムを目指すのなら、なおさらです……彼は、常に最前線で戦っている人だから」

「……わかりました」


 ラスベルは、覚悟を決めたように頷く。そうだ、泥臭く喰らい付いていくんだ。でないと、ヘーゼンどころか、ヤンやモズコールの影すら踏めない。


 現にヘーゼンの周りにいる人材は、主体的に動く者ばかりで、有能である者ほど、最前線に置いている。


「まあ、大変な人ですが、いずれ慣れますよ。俺なんて、もう慣れてピンピンです」

「……っ」


























 眼球ガン決まりで、痩せ細ってますけど!?




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