表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

375/700

入城


 ノクタール国は、ジオウルフ城に入城した。すぐさま、ヘーゼンは城の内部に罠がないかを確認させた。しかし、どこにもそんな様子はなく、制圧も難なく行われた。


 兵たちはすでに浮き足たち、お祭り騒ぎだった。しかし、無理もない。兵数12万。将軍3人に軍長15人の圧倒的な戦力差にも関わらず、勝つことができたのだから。


 陽が落ちて、勝利の宴が開始された。兵たちは、完全にハイになっていて、食べて、飲んで、踊ってドンチャン騒ぎだ。


「おい! おいおいおいおい! 信じられねぇ! 勝っちまったよ……信じられねぇ」


 酔っ払ったジミッド中将は喜びよりも、驚きが勝るようだった。現実を確かめるように、何度も何度も『信じられねぇ』を連呼する。


 帝国将官のギボルグも、ノクタール国の将校たちも全員が半信半疑の様子だったが、やはり、勝利の余韻に浸っており、兵と同様に酒を交わす。


 一方で。


「あー。楽しそうだな……なんだって、俺は今日警備なんだろう」


 楽しそうな声とは裏腹に、警備の番であった兵の1人が、ため息をつきながらつぶやく。


 その時。


「そう言うな。君たちのような者がいるから、彼らも心置きなく楽しめているんだ」

「へ、へ、ヘーゼン元帥!」


 声をかけられた兵は、その場で姿勢を正し直立する。周囲の兵たちも気づいたようで、すぐさま、現場の責任者だったグラビ少佐が駆け寄ってくる。


「な、なぜこのようなところに!?」

「同じだよ。敵軍が奇襲をかけてこないとも限らない。城の視察も含めて、歩いている」

「……そ、そんな。最大の功労者は、ヘーゼン元帥ではないですか!? どうぞ、宴に参加なさってください」

「功労者かどうかなんて関係ない。君たちだって、同じだ。非常にいい働きをしてくれている」

「……」

「ちなみに、今晩の給金は倍を出す。みんなにも、そう伝えてくれ」

「い、いいんですか!?」

「ああ。また、この戦の褒賞も、前のロギアント城以上に出すから期待していてくれ」

「はっ! ありがとうございます」


 グラビ少佐が嬉しそうに頭を下げる。


 それからヘーゼンが城郭を回っていると、ドグマ大将がやってきた。


「ここにいたのか」

「なにか用事ですか?」

「ああ。重大な用だ」


 老人は、いつになく厳しい表情をしている。


「聞きましょう」

「このジオウルフ城奪取における、最大の功労者と酒を交わしてなかった」

「……はぁ」


 ヘーゼンは、イタズラ坊主のような表情を浮かべたドグマ大将に、大きくため息をつく。


「驚かさないでください」

「ははっ! 驚いたのか? そりゃ、痛快だな」


 持っていた酒を渡しながら、老人は機嫌が良さそうに笑う。


「まあ、少しくらい羽目を外したっていいだろう。近隣で敵の気配があるという報告もない。ダゴゼルガ城からの援軍も撤退した。さすがに今晩、敵襲に遭うことはあるまい」

「……」

「それとも、なにか懸念があるのか?」


 ヘーゼンは数秒ほど沈黙したが、やがて、口を開く。


「ドグマ大将にだけ言います。この撤退は正直言って痛手です」

「……どう言うことだ?」

「できれば今日、勝負を決めたかったんです。相手の兵と将校を可能な限り削った上で」

「……」

「相手は、恥も外聞も捨てて温存する策に出ました。これは、イリス連合国を倒すという目標において、大きな打撃だ」

「……珍しいな。ヘーゼン元帥が読み違えるなんて」

「そうですか? 結構、読みは外してますよ」


 敵の動きを完全に操作することなどできはしない。もちろん対策は打ってあるが、功を奏すかどうかはまだ先の話だ。


「総じて、イリス連合国の将軍のレベルは高い。次の戦では一城での戦いという訳にもいかないでしょう」

「……」


 ノクタール国が、ヘーゼン一強なのは間違いない。だが、今後の戦はそうも言ってられなくなる。


「必要なのは、やはり人材か」

「ええ。新たな人 芽吹きがなければ、多面的な攻勢に耐えられそうもない」

「……っと、そんな暗い話で誤魔化されないぞ。ほら、酒を飲め酒を」

「……はぁ」


 酔っ払ったドグマ大将が、思い出したかのように酒を勧め、ヘーゼンは再び大きなため息をついた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 浮き足立つ、は悪い意味で不安や恐れなどの感情を抱き、落ち着きがなくなるという状態ですね。 喜びの感情のときは浮き立つ、で良いかと思います。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ