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息切れ



「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……」


 上空で。ヘーゼンは激しく息を切らしていた。自身の足元に発生させた氷柱の上で、立っているのもやっとの状態である。


 基本的に、体力はある方ではない。


 圧倒的な魔力でカバーしているが、身体能力は常人以下だ。たまに、肉体強化魔法を使用する時もあるが、それは主に腐った上官蹂躙用である(必ず奴隷にする、もしくは殺害すると決めた者にのみ限定発動)。


 それでも。


 今、この瞬間は、ヘタってはいけない。


 許されるのは息切れすることぐらいで、敵にも味方にも、怪我をして倒れることも、疲れて片膝をつくことすら見せてはいけない。


 この魔法使いを相手にしたら絶対に勝てないと思わせなければいけない。


 味方の騎兵部隊からは、驚愕と歓声が入り混じる。敵後方の歩兵部隊からは、恐怖と慄きが入り混じる。


「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……はぁ……はぁ……はぁ……ふぅ」


 やがて、ヘーゼンは呼吸を整えて、下へと降り立った。


「……あなたって人は本当に信じられません」


 帝国将官のギボルグが、呆れたように苦笑いをする。


「次は君たちの番だ」


 そう言って。


 巨大な氷柱を移動させ、道を開く。一度発生させた氷柱を動かすことも、結構な魔力を消費するが、これもやむを得ない。


「魔法使いの部隊は駆逐した。攻速ノ信(こうそくのしるし)が付与された君たちなら、戦況は有利になるはずだ」

「はい!」


 帝国将官のギボルグは返事をし、速やかに騎馬兵を向かわせる。ヘーゼンは前方を譲り、後方に回って全体を眺める。


「……」


 将軍の2人は、ドグマ大将が抑えている。どうやら、こちらに乱入しようとしていたらしいが、鉄壁の守りが阻んだようだ。


 ジミッド中将は相変わらず無謀な突撃を繰り返しているが、それでも第3軍の軍長に猛攻をかけて追い詰めている。チャンスがあれば討てるか……


 戦況は五分五分という見立てだ……相手は圧倒的に多数だが、士気で圧倒している。


「……少しかき乱すか」


 ヘーゼンはそうつぶやき、右手に真紅に染まった大きめの魔杖を握る。


血爆炎ちばくのほのお


 死者の血を、強力な黒炎に変える魔法である。イリス連合国の部隊が戦闘をしている要所で、黒炎を発生させ、隊列に混乱を生じさせる。


 更に。


夜叉累々(やしゃるいるい)


 死者の血と土の混合物から錬成する魔法だ。戦場にはすでに腐るほどの死体と血が転がっている。たちまち血に塗れた土が人間大の大きさとなり、死兵が精製される。


 その数は5千あまり。


 死兵たちは、次々とイリス連合国の兵たちに向かって襲いかかっていく。ドグマ大将のところは肉壁として、ジミッド中将のところは無謀な突撃要員として支援させる。


「ふぅ……」


 ひと通りやれることをやって、ヘーゼンは一つため息をついた。懸念したところは将軍2人の乱入だったが、上手くドグマ大将が抑えてくれた。


 大将軍グライドも、この様子では間に合わない。


「……」


 イリス連合国の意思系統が、思っていたよりも愚鈍だ。国家体系からある程度遅いとは踏んでいたが、想像以上に機能していない。


 グルグルグルグル。戦場の中で思考が巡り巡る。この後の行動。3日目の行動。戦後の行動。直近の未来がどう遠い未来に結びつくか。限りなく多い選択肢の中で、効果的で、戦略的柔軟性の高い策を思考する。


 すでに、この戦は圧倒的な優勢だ。しかし、それはこのラムダム平原での戦場においてはだ。陽が落ちて、明日になればあちらは籠城戦に備える可能性が高い。


 長期戦になれば、他国から援軍が来る可能性もある。狙ったのは盟主シガーと諸王との分断。思いのほか愚王だったようで、かなり成功しているが戦況が変われば心変わりも出てくるだろう。


 最も狙いたいのは、大将軍グライドと戦わずしてイリス連合国の首都を陥落することだが、さすがにそこまで甘くはないだろう。


「とすれば……明日だな」


 さまざまな情報と戦況を整理しながら、ヘーゼンはボソッとつぶやいた。



 

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