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           *


 膨大な戦闘の経験則を持つヘーゼンは、基本的に後の手を好む。相手の戦力を瞬時に把握した上で、即座に最善手を打つ。


 理由は単純明確だ。


 後だしジャンケンの方が強いからだ。


 敵が『大地激震だいちのげきしん』と言う稀な魔杖を使用した瞬間、ヘーゼンは対応策とそこに至るまでの道筋を描いた。この魔法は、こちらの大陸では初めてだが、前の大陸ではすでに経験している。


 仕込みは瞬時に行った。火竜咆哮かりゅうのほうこうで発生させた大量の蒸気。あたかも、相手の魔法で弾かれたような演技ブラフを入れながら、相手が焦れて我慢できなくなるのをひたすらに待つ。


「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……」


 ただ、ヘーゼンも当然無傷ではない。ある程度の地点まで相手を誘い、かつ、一瞬の隙がなければ成功しない。


 次々と間断なく放たれる強力な集団魔法。ユウラジ軍長の餓狼ノ鎖(がろうのくさり)。ダリオ軍長の蟲飫毒むおのどく


 蒸気と熱気は自身の周囲にも充満し、息をするのも苦しいほど。魔力はガリガリと削られていく中で、ヘーゼンは自身でカウントダウンを開始する。


 無限には耐えられない。


 このまま打ち続けられれば、戦術の変更を余儀なくされる。相手が魔力の枯渇を狙い、間髪入れずに魔法弾を放ち続ければ、次善の策を強いられた。


 だが。


 相手が一瞬攻撃を緩め、溜める瞬間を見逃さなかった。


 ヘーゼンは瞬時に、幽幻燈日ゆうげんとうじつを発動する。


 この魔杖は、自身の幻影を映し出すことができ、その間、自身の姿を消すこともできる。ヘーゼンは、もう片方の手に収まった魔杖『浮羽ふうう』で上空へ飛翔する。


 蒸気の中で、彼らの視界から消えることに成功した。


 ヘーゼンは次に氷雹障壁ひょうびょうしょうへき()()()()()()()()()()。この魔杖は、瞬時に大気中の水蒸気を凍らせ、自動で防壁を張る効果を持つ。


 しかし、それはあくまで効果の一つでしかない。


 魔杖には、1つの魔杖で複数の効果を出せるものが存在する。例えば、ギザールの雷切孔雀らいきりくじゃくも、瞬時に電光石火の移動を可能にする『雷切』と、対象に雷を流す『孔雀舞』の2種類がある。


 性質を一部変化させ、それが異なった効果をもたらす。


 だが、強者でも1種類の魔杖で2つの効果を出すことは困難だとされる。使用するためには、脳と身体における魔力の流れを大きな変換することが必要だからだ。


 しかし、ヘーゼンは魔杖を習得する初めからさまざまな魔杖を使うよう修練をしてきた。そんな彼にとって、1つの魔杖で複数の魔法を放つことは至極簡単だ。


 氷雹障壁ひょうびょうしょうへきの持つもう一つの能力をヘーゼンは『絶氷ぜつひょう』と呼ぶ。


 それは、単純に自動で氷柱を発生させるのではなく、手動で発生させると言うごくごく単純なものだ。


 しかし、処理をより単純にした事で、広範囲での発動が可能になる。加えて、充満させておいた蒸気でより瞬時に氷結が可能だ。


 自身を中心に約1キロ四方。


 そして。


 軍長えものはすでに氷雹障壁ひょうびょうしょうへきの間合いの中に入った。


「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……げほっ、げほっ」


 大量に空気がなだれ込んできて、思わず咳き込んだ。だいぶ肺と魔力を酷使した。


 だが、釣れた獲物はでかい。


 ヘーゼンは氷雹障壁ひょうびょうしょうへきを構えて、勝利に喜び続けている軍長えものを漆黒の瞳で見下ろしつぶやく。


絶氷ぜっひょう


 瞬間だった。


 一瞬にして。


 沸き立つ歓声も。


 軍長たちの笑みも。


 魔法使いたちの息づかいも。


 ……心臓の鼓動も。

















 全て氷漬けになった。

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