天井
*
「はっ……」
気がついたら、見知らぬ天井だった。ケッノは、生まれてきて、このようなボロい天井は見たことがなかった。
起き上がると、それに見合ったボロい建物。ほとんど光が差し込まぬ暗闇の中、冷たく、黒く、汚い壁に囲まれている。一面だけ鉄格子が敷かれており、まるで、牢屋のようなーー
と言うか、牢屋だった。
「っと、どう言うことだ!? なんで牢屋がいやむしろなんで私が牢屋に!?」
思わず独り言のトーンが大きくなる。ケッノがガシャガシャと鉄格子を動かそうとするが、ビクともしない。
そんな中。
「気がついたかい?」
「……ひっ、ひいいいいいいいいいっ」
ケッノはまるで、悪魔が出たかのようにへたり込み後ずさる。鉄格子の奥にいたのは、ヘーゼンだった。
と言うか悪魔だった。
そうだ、思い出した。この男に、タコ殴りにされて、失神したのだ。あの、途方もなく積み上がっていく痛み。脳裏に焼き付けられたそれが、またたく間にフィールドバックする。
「君とバリゾは気絶していたから、別で説明をする」
「バリゾ……」
隣を見ると、同じく檻にへばりついて絶望めいた老人がいた。ツルッパゲになっていて、最初は誰かわからなかったが、よく見たらバリゾだった。
「今日から、ここが君たち帝国将官の部屋だ」
!?
「ど、どう言うことですか?」
「緊急体制を敷くと言っただろう? そこで、ノクタール国の平民出身者から、広く人材を募っている。必然的に部屋が足りなくなる。だからだ」
「……っ」
平民出身者を雇う。帝国ではあり得ない禁忌的な行為だ。そして、そんな身分の低いやつらのために、エリート中のエリート貴族の自分が立ち退き、こんな牢獄にぶち込まれるなんて。
「な、納得できません」
「どこが?」
「我々は帝国将官です。言わば、大陸の中で最もエリートいやむしろエリート中のエリート。その誇りに懸けてーー」
「その誇りが君のせいで穢されているんだよ。君のせいで帝国将官の看板が泥まみれなんだ」
「……っ」
酷い。いつもながら酷い。常時酷い。
「それに、公平には割り振ったつもりだけどね。能力順に割り振った結果、ここになっただけだから、むしろ君たちが悪いんじゃないか?」
「はっ……くっ……」
なんという悪魔。
「まあ、別に納得してくれなくても構わない。君たちに拒否権などないからね」
「……っ」
まるで、奴隷。いや、罪人扱い。
「わかりました。ただ、自費で別のところで宿泊します」
別に、こんなところにいる必要などない。金なら腐るほどある。町の高級ホテルにでも宿泊して、夜にはストレス発散をーー
「接収した」
「……えっ?」
「何度も言わせるな。財産はすべて接収した。当然、部下たちも」
「……」
「……」
・・・
「なああああにいいいいいいい!?」
「協力、感謝する」
「……っ」
いや、感謝するな。勝手に奪っておいて、『ありがとう』って。いくらなんでもあり得ない。
「イリス連合国への侵攻に向けて、本格的に軍備を増強する必要がある。足りないんだよ、簡単に言うと」
「そんな、勝手なことが許されるんですか!?」
「許されるもなにも、トップだから」
「くっ……」
「断っておくが、君たちだけじゃない。当然、元帥である僕を筆頭に、各々の大臣も同様に財産を接収される」
「くっ……」
自分たちもやるから、お前たちも当然やるだろうと言う、暴力的な同調圧力。まるで、喚いているこちらが悪いかのような論調で、見下してくる。
「今は戦時中だ。王の側にいる家臣たちが、率先して我慢し身を捧げるほどの覚悟で臨む必要がある」
「……」
恐ろしく身勝手な理論。
「まあ、もちろん見返りもある」
「な、なんですか?」
「勝てば、10倍にして返す」
「……っ」
いつもご拝読ありがとうございます!
気がつけば、ハーファンタジー日刊ランキング43位になっていてびっくりです!
感謝の気持ちを込めて(そして、より高みに上がるために笑)連投します!
レビュー・評価・感想、どしどしお待ちしてます! 小説(ファンタジア文庫)1巻、コミック連載(ヤングエースUP)も、どしどしやってますので、併せて覗いてみてください!
今後とも何卒よろしくお願いします!




