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指導


 1日目。ヤンは、帝国将官たちとノクタール国大臣たちの地位を同等にした。そんな処遇に対し、早々に不満気な表情をしたのは、公式クズのケッノだった。


「な、なんでお前のような小娘に我々帝国将官がいやむしろ我々偉大なる帝国将官が小娘に指図をーーあばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばっ!?」


 弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾っ!


 口答えした瞬間、いきなりマウントをとって拳の弾幕を顔面に叩き込むノクタール国元帥。瞬間、ケッノの頬が、首が、ブルンブルンと左右に揺れて、大量の血が巡り舞う。


 そして。


「他。気に入らないやつは手を挙げろ」


 ピクッ……ピク……


 ケッノが死ぬ一歩手前のピクつきを見せる一方で、血に塗れながら爽やかな微笑みを浮かべるヘーゼン。


「「「「「……」」」」」


 当然、口答えなどする者は存在しない。


「断っておくが、ヤンの言葉は、僕の言葉だ。異論・反論は大いに結構だが、帝国将官という看板ブランドを傘にしたような言動、またその逆も許さないからそのつもりでいてくれ」

「い、言えるわけないでしょうが。あんなもの見せられて」


 隣のヤンが、早々に口答えをする。


「なんで?」

「わからないですか? 本当にわからないですか?」


 たまに……いや、大いに無自覚サイコパスなところがあるから、いや、人間の心がわからないから、いや、そもそも人じゃなく悪魔かもしれないから、わからないのかもしれないが。


「建設的な議論なら、こんなことにはならない。だが、話すこと自体無駄なことと見なしたら、こうなる」

「そういう圧倒的な恐怖が、建設的な議論を出しにくくするんですよ!」

「常在戦場。内政官とあれど、自身の意見にはある程度の覚悟を持つべきだ」

「議論は積み重ねてこそ意味があるんです。そんな覚悟いちいちしていたら、中身の濃い議論なんてできないでしょう」

「大丈夫。慣れるって」

「ヤバ!」


 ガビーンとヤンがいつも通りのリアクションをとったところで、こんなサイコパスと議論は無駄だと早々にあきらめる。


 あらためて、周囲を眺めるとヤンの見る目が違った。すがりつくような助けを求める瞳。悪魔に立ち向かえる者への敬意など、おおむね好意的に見られている気がする。


「……」


 異常者の異常行動は、おおよそ、ヤンに権力を持たせるためのパフォーマンスなんだろうと推察する。ヘーゼンは、生粋の暴君だ。必然的に、口答えができる者が限られてくる。


 そこに建設的な議論は起きにくい。


 だから、彼らは自らの代わりとしてヘーゼンに口答えできる者を求める。自身の要望を言っても、それなりに聞いてもらえ、尊重し、場合によっては重宝されるような者を。


「……はぁ」


 ヤンは大いにため息をつく。意図はわかるし、今後の展開を考えても、最善最速なのはわかる。ただ、瀕死一歩手前のケッノの姿を見せられると、『正しさとはなんぞや』と大いに問いかけたくなる気持ちだ。


「とにかく、すーに言いにくかったら、私に言ってきてください。ただ、対応できない時もあるので、その時はトマス大臣か……レンドン暫定特別顧問に言ってください」


 ヤンはそう答える。レンドン=アーグラは、派遣された帝国将官の中で最も優秀な者だった。毛むくじゃらの中年で、ニヘラヘラと常に笑っている緊張感のない感じだが、これまで出てきた提案もまともなものが多かった。


「……」

「バリゾ内政官。あくまで、暫定です。どうか、納得してください」


 老人は、いかついた顔を黙ったままソッポを向く。間違いなく、降格されて不満なのだろう。レンドン以外の役職を解任に、一同ノクタールの大臣級にした。気持ちはわかるが、今後どのようにモチベーションを保っていくかが大事なんだと思う。


 が、どうにも不貞腐れている。


「聞いてます?」

「……フン、あばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばっ!?」


 弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾!


 すぐさま、ヘーゼンがバリゾのマウントを取って拳の弾幕を繰り広げる。


 さっき見た光景。


 以下同文の展開。


 デジャヴ。


 誰もが呆気に取られる中。


 凄惨な死体一歩手前のピクつき老人が出来上がる中。


 血に塗れた悪魔は、ニコッと笑う。
























「返事をしないと、こーなる」


 

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