表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

338/700

育成


           *


 部屋の隙間で。ガビーンと、ヤンが固まったまま立ち尽くしていた。そして、ひと通りの指示を終え、去って行こうとするヘーゼンと目が合う。


「どうした?」

「き、鬼畜……」

「なにが? いつも通りだが」

「そーでした鬼畜すぎる!」


 やはり、ガビーンとするヤン。


「あいつらは甘やかすとすぐにサボるんだよ。《《ちょっとだけ》》気を引き締めてもらった方が働くんだ」

「『ちょっとだけ』という定義を、もはや逸脱しすぎていると思うんですけど」

「そう?」

「ヤバ!」


 無自覚というのが、なおのこと恐ろしい。とんでもないサイコパスであるということを、黒髪少女はまたしても、嫌というほど、再認識した。


 そんな中、隣に控えていたモズコールが、華麗な笑顔をこちらに向けてくる。


「ヤン様。『覗き』という行為は、未来の淑女レディとして相応しい行動とは思えないので、自重なさった方がよいと思います」

「……っ」


 とんでもなく自重すべき変態から、『自重しろ』と言われて、もう死ぬしかないとヤンは思った。しかし、そんな幼女の悩みなどお構いなしに、イカれサイコパスは、とんでも変態の肩を叩いて褒めたたえる。


「しかし、モズコール。よくやってくれた。予想以上の働きだった」

「嬉しいお言葉です」

「……」


 やはり、トリッキーな長所を持つ者は使える。そういうことなのだろうと黒髪少女も思う。


「ここからは、総じて君の仕事だぞ、ヤン」

「わかってます」


 とは言え、あまり嬉しい仕事とは言えない。人の評価は苦手だ。特に、その人の人生に関わるものは、できる限りやりたくないのが本音だ。


「査定は任せるが、大まかな考え方を聞きたい」

「まずは、欲しい適性が優秀な者から残していきます。そして、次に欲する適性ではないが、優秀な者。こんなところです」


 ヤンが答えると、ヘーゼンが頷く。


「シンプルな回答だな」

「ダメですか?」

「いや、いい。僕の考えと同じだ。ただ、1つ。ケッノ特別顧問は最後まで残せ」

「な、なんでですか?」


 言いたくはないが、あの人は結構なドクズだ。帝国での仕事ぶりも、ノクタール国の仕事ぶりも、総じて酷いものだった。この人だけは真っ先に落とそうと内定させていたのに、なぜーー


「クズだからだ」

「……っ」


 逆に!?


「あのケッノという者は本当にどうしようもない。強者の影に隠れて生きているにもかかわらず、それで自分が偉くなったと勘違いしている。それでいて、影に隠れていたから能力もない。影でいるから思考も陰鬱になり、陰口を叩く。影で他人を陥れ、先んじてトライしようとする者の邪魔をする。まあ、僕のもっとも嫌いな部類の男だな」

「だっ……だったら、なんで……」

「悪い手本として残す」

「……」


 言われて、なんとなくしっくりときた。


 人から好かれる男は、手本にならなければいけない。逆に、人から嫌われる男は、悪い見本でなければいけない。


 『こうなりたい』と思わせる人。『こうはなりたくない』と思わせる人。どちらも、他人に対して好影響をもたらすと言うことだろう。


「あのクズは非常にいいサンプルになる。ヤツがいることによって、全員があのクズのようにはなりたくないと思い、働くだろう」

「……」

「ヤン。わかっているだろう? あの男は、どうしようもなく腐っている」

「……」


 報告書を見たが、経歴は真っ黒だった。陰湿に下級貴族、部下をイジメて、何人も病気、左遷、自殺に追い込んでいる。


「誰から見ても、あの男は地獄に叩き落とすべき者だ。ならば、有効活用するべきだ」

「……」

「それとも、更生を促すか?」


 ヘーゼンの問いに、ヤンは悔しそうに首を振る。どう頑張っても、ケッノにかける時間の対価が得られることはない気がする。


 以前の、シマント少佐の時のように。


「わかればよろしい。いいか、ヤン。僕の考えは変わらない。無能のクズを徹底的に蹂躙し、有能な者の実力を伸ばす。そうすることで、社会的に与える影響も好転していくはずだ」

「……はい」


 いつからだろうか。ヘーゼンの思想が、ある程度理解できるようになってしまったのは。子どもの頃から持っていた理想が、今ではなんでそんな風に思えたんだろうと不思議になるくらいに。


「これは、今後の育成にも使えるから体感で覚えて、実践しなさい。まあ、簡単に言えば『見せクズ理論』だな」

「……っ」


 そんな暴論、初めて聞いたが。


「……」






















「なるほど、いわば、見せパン理論のようなものですな」

「違う」

本日3月28日にヤングエースUP様よりコミカライズの連載が始まります! ぜひぜひ読んでみてください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
いつも笑わせてもらってます! 超面白いす! 普通のざまぁモノとは全然違う!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ