提案
*
すべての帝国将官が、前向きかつ喜んで『残る』と言う選択肢を選んだところで。ヘーゼンは、整列していた帝国将官たちに対して言い放つ。
「まず、3日で確実に5人落とす」
「……っ」
帝国将官たちは、思わず生唾をゴクリと飲み込んだ。あまりにも早過ぎる見切り。新任の帝国将官だって、半年間は適性を見極めると言うのに。
「10日後に更に5人落とし、1ヶ月後に更に5人落とす。あくまで目安で、多少調整はするが基本前提は変えない」
ここにいる帝国将官たちは、20人。実質的には、4分の1しか残らない計算になる。
1ヶ月で!?
「また、僕が無能だと見なした者は、秒で強制送還だ」
「……っ」
聞けば聞くほど、厳しさしかない。なんだ、この深淵の職場は。しかし、やるしかないことはもうわかりきっている。やらなければ殺られる。それは、明白な事実だった。
「あの……」
「なんだい、カリナ=メタ君」
「いったいどのようなことをすれば、評価がよくなるのでしょうか?」
「そんなの自分で考えろ」
「……っ」
「僕が見たいのは、君たちの適性だ。どのような受け止めをし、どのように考え、どのように行動したか。それを精査したいんだ」
圧倒的上官。遥か頂から目下ろす上から目線。元々、この中で爵位も階級も下だった男に、ここまで下に見られることは屈辱以外の何物でもない。
「カリナ=メタ君」
「は、はい」
「僕はさ、君たちの頑張りが見たいんだ」
「……っ」
なんて爽やかな笑み。この世に生まれてから一度たりとも悪事を思い浮かべたことすらないほど、屈託のない微笑み。
「と言うことで、イリス連合国と渡り合うために、どうすればいいのか、各々の考えを聞かせてくれ。まず、ケッノ特別顧問補佐」
!?
「は、はいぃぃぃ!?」
存在を消していたのに。当てられないように、当てられないようにしていたのに、ピンポイントできた。
「だからだよ」
「……っ」
頼むから、心を読まないで欲しいとケッノは思う。
「君はさ。強者の後をひたすらついていくことで、障害という障害を回避してきた、情けない男だろう?」
「くっ……」
「手に取るようにわかるよ。いるんだよな、コソコソ指名されないようにして、間違った回答をしたヤツに対して影で嘲笑う奴。僕は君みたいな、陰険で、陰に隠れた、口だけクソ野郎が嫌いでね」
「……はぐぅ」
なんと言う悪口。しかも、正面から徹底的に分析して、真っ向勝負で罵倒してくる。あまりの酷さに、ケッノは清々しくさえ感じた。
「まあ、しかし。逆に言えば、これはチャンスでもある。伸び代と言ってもいい。前に出て積極的に発言することで、隠れた適性が発現し覚醒するかもしれない」
「そ、そんなことがあるんですかいやむしろそんなことがあるんですか?」
もしかしたら、と思った。ケッノの記憶では、真っ先に当てられる者は、確かに間違った回答も多かったが、同時に出世もしてきた。その当時は、彼らの無能を陰から嘲笑っていたが、同時に嫉妬も覚えていたのは否めない。
この男……もしや、自分の潜在能力を期待しーー
「まあ……0.001パーセントくらいは期待している」
「……っ」
ゴリッゴリに期待されていない。
「と言うことで、ケッノ君。なにか提案はあるか?」
「……」
なにか。なにかなにかなにか。なにかなにかなにかなにかなにか。なにかなにかなにかいやむしろなにか絞りださなくてはいけない。
「……」
「……」
・・・
「ない……か?」
「……」
瞬間、ヘーゼンがケッノの髪をガンづかみして鋭い視線を向ける。
「おい……この口だけクソ野郎。普段から、他人のアラばっかり探すことばかりしかしてないから、なんの提案もできないんだよ」
「いぎいいぃぃ! ごめ゛ん゛な゛ざぁ゛ぁ゛い゛」
毛根が。ストレスと、あまりの引っ張り力で毛根が死ぬ。死滅してしまう。
「沈黙を貫けば、次に行くとでも思ったか? 甘過ぎるんだよ。重要なのは、具体的な提案を考え、作成して持ってくることだ」
「ひだぁい! ひだぁいひだぃひだあいいいっ!」
「いい加減自覚しろ。今のお前には、地位もない。守ってくれる父も母も名門の親戚たちもいない。頼れるのは己の才覚のみ。どうすれば、イリス連合国に勝てるか。どうすれば、ノクタール国の力になれるか。強制送還されて、一族もろとも抹殺されたくなければ、毛根がすべて抜け落ちるまで、四六時中このことを考えておけ」
「は……はぎぃいいいいいいいい!」
ブチブチブチブチ!
思いきり力任せに毛根を引き抜いたヘーゼンは、雑に手を払って、ニッコリと次の人に発言を促す。
「じゃ、バリゾ特別顧問。なにかあるか?」
「……」
地獄、とこの場にいる全員が思った。




