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 翌日、シオンとヤンは再び大首長ガサラゴンのテントを訪問した。2人がドルガ族式のお辞儀をすると、好好爺は顔をしわくちゃにしながら笑う。


「おお、お前たちが振舞ってくれた酒、料理は美味かったぞ」

「そうですか。よかったです」


 上機嫌に嬉々として話してくれた。どうやら、かなり気に入ってくれたらしい。会話ができるほどの信頼関係は得たと感じ、ヤンは、早速話を切りだす。


「あの、それで。今日は少しお話を聞きたく思ってるんですけど」

「なんじゃ?」

「タラール族についてです」

「ほぉ」


 ガサラゴンは、目を大きく開いてつぶやく。


「ドルガ族から見て、彼らのことをどう見ますか?」

「……最近は、クシャラのところが暴れてるようじゃな」


 話し出した途端、大首長の表情が曇った。どうやら、現状のタラール族に対してあまり好印象は持っていないらしい。


 ヤンは続けて質問をする。


「クシャラ?」

「大首長ブァゾスの3番目の息子じゃ」


 ヤンもシオンも顔を見合わす。


「タラール族全体が好戦的かと思ってましたが」

「それは誤解じゃ。ブァゾスは気のいい男での。時々、酒を酌み交わす仲じゃったし」

「……」


 その話は初めて聞いた。平地の者にとって、タラール族は無差別に襲ってくる民族という風評しかないが。


「今は、してないんですか?」

「クシャラが平地の者だけでなく、我が民たちも襲うようになったからの」

「……なぜ、その者はそこまで好戦的なんでしょう?」

「1番目の息子ジブラが殺されたことじゃろうな。ヤツは、かなりあの男を慕っておった」

「……」


 身内を殺されて、外部に向けて敵対視するようになったと言うことか。怨恨はよくあることだが、ここまで極端に人を襲うようになるケースも珍しい。


「ブァゾスも、もう高齢じゃからな。跡目争いも激化していると聞く。なので、ヤツの息子たちはこぞって外の者を襲うのじゃ」

「跡目争いの候補は誰なんですか?」

「2番目の息子ガロと、3番目の息子クシャラじゃな。今は、クシャラの方が優勢なので、ガロも勇猛を競わざるを得ないじゃろ」

「大首長ブァゾスは、それについてなにか言及されないのですか?」

「ふぅ……」


 ガサラゴンは少し複雑そうな表情を浮かべる。


「ヤン。後継者選びと言うのは、難しいもんじゃ」

「……」

「ブァゾスはもう長くない。もって、あと2年と言うところじゃろう。その後は、ガロかクシャラが大首長となる」

「……」

「大首長というのは、大首長が指名する。だが、それを決めるのは、あくまで民じゃ」

「独断では決めないと?」

「大首長自身の意志で決めただけの者を、民は大首長とは認めない。跡目候補の者たちは、民から認められた者でなければならない」

「……少し誤解をしてました」


 シオンはボソッとつぶやく。この地方の大首長はその権限が絶大である。なので、跡目についても、自身の意思で決められると思っていた。


 だが、どちらかと言うと、中立者に近い立ち位置であることがわかった。自身の意志とは関係なく、あくまで民からの支持が多い者を決める。


 これは、より民主的な考え方だ。


 ガサラゴンは深いため息をつく。


「ワシは、ブァゾスの想いが手に取るようにわかる。今は、誰がタラール族の民が最もついてきたいと思わせる者かを見ているのじゃろう。それが、自身の意志ではなくとも」

「……他にブァゾスの息子はいますか?」


 ヤンが尋ねる。


「4番目の息子にルカという者がいる。未子で若いが、聡明な男での。跡目争いには加わってないようじゃ」

「……ありがとうございます。すごく参考になりました」


 2人は深々と頭を下げる。


「あの、もう一つ聞きたいですが」

「なんじゃ?」

「もし、クシャラがドグマ族の大首長になったら、どうしますか?」

「……戦わざるを得ないじゃろうな。大首長の命令は絶対じゃ。ワシも民を守るために、そう指示せざるを得ない」

「……」


 ヤンはしばらく黙っていたが、やがて、話を切り出した。


「ガサラゴン大首長。私たちから一つお願いがあります」

 

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