表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

320/700

強さ


 シオンは、思わず口をあんぐりと開ける。


「それって、領主様(ヘーゼン様)の言うことに逆らうってこと?」

「うん」

「……正気?」


 想像するだけで、ゾワっと背筋が凍る。シオンにとって、ヘーゼンとは絶対権力者だ。一度決まった結論に対して、異論反論などを受け付けるとは思えない。


 しかし、ヤンは小さな顔を横に振る。


「大枠の戦略通りに進めても、現場レベルで修正したい場合もあるから。まあ、相手がすーだから、大変だとは思うけど」

「た、大変って」


 シオンは呆れるようにつぶやく。


すーは、性格が悪くて、唯我独尊で、反逆者は絶対に許さないと言う根っからの狂人だけど、柔軟ではあるから。あの人の目的に沿えば、説得は可能だと思うんだ」

「……」


 そこまで言うか、と密かに思うが、しっかりと的を射ているような気もする。


「ちなみに、領主様の目的って?」

「イリス連合国を瓦解させること。しかも、数十年単位じゃなく、1年以内っていう超短期的な戦闘で」

「……そんなこと可能?」


 にわかには信じがたい話だ。ノクタール国のような極小国が100倍ほどの規模を誇る大国を滅ぼすなんて。しかし、ヤンは冷静な表情で答える。


「正直、難しいと思う。でも、勝つには超短期決戦しか無いような気もする。じゃなきゃ、ノクタール国の体力がもたない」

「……」


 その小さな頭で、そのクリクリとした黒い瞳で、いったい何が見えているのだろうと、シオンは心から不思議に思う。少なくとも、自分には想像すらできない。


「なら、それこそ悠長にしている暇はないじゃない」

「必要な時間をかけるだけだよ」

「そんなの領主様に通じるかな」

「わからない。でも、ドルガ族は戦闘向きじゃないよ。彼らに対して争いを焚きつけるのは、間違ってると思う」

「……」


 ヤンはキッパリと答える。


「じゃ、じゃあタラール族はどうするの? このままだと、イリス連合国に侵攻をかけた途端に、攻撃を食らうよ」

「……タラール族と共闘できないかな?」

「い、いやいや。あの戦闘民族に、それは無理だよ」


 道中でも、タラール族に遭遇した瞬間に襲いかかってきた。それだけ、好戦的な民族だ。ナンダルもシオンも、なんとか交易をしようと試みたが、頓挫した。それほど、コミュニケーションが難しい相手だ。


「それに、和平はダメと領主様(ヘーゼン様)から言われているでしょう?」

「あの時点ではね。でも、私、こっちのがいいって思っちゃってるから」

「……」


 シオンはその無邪気さに呆れた。この少女に、恐怖心というものはないのだろうか。ヘーゼンに真っ向から反論して、ギャンギャンにやられている光景を、シオンは何度も見てきた。


 そのたびに、泣き叫んで、不貞腐れて、怒り猛って、キャンキャン吠えて、ガビーンってなって、それでも懲りずに刃向かっていった。普通の人……いや、誰でもそんな気は失せそうなものだが。


「と言う訳で、明日タラール族のお話を聞きに、大首長の下に行こう。異民族から見るドルガ族の話も聞いて判断したいの」

「……うん」


 そう頷いて、シオンは床へと転がる。すると、ヤンが嬉しそうに、身体を擦り寄らせてきた。


「ヘヘ……今日は一緒に寝よ」

「……」


 こうして見ると、ただの甘えん坊の5歳児なのだ。こんな小さな身体の中に、どうしてあれだけの内面的強さがあるのだろう。


 シオンは一瞬でスヤスヤと眠るヤンの頭を優しく撫でた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ