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ゴレイヌ国(2)


 2時間後、首都内の高級レストランに、ゴレイヌ国のミセスヴァン外務大臣が到着した。店の前には、ナンダルが出迎え、笑顔で深々とお辞儀をする。


「お待ちしておりました」

「いや、こちらこそ。今日、この機会を得られたことを君に感謝したい」


 ミセスヴァン大臣は、人当たりの良い柔和な表情で応じる。この老人は70歳を超える高齢だが、国内ではかなりの発言権のあるキーマンだ。


 ナンダルのエスコートで店内に入ると、そこには黒髪の青年が座っていた。彼は速やかに立ち上がり、礼をする。


「ノクタール国の少佐ヘーゼン=ハイムです」

「おお、君があの救国の英雄か。一度、会ってみたいと思っていたのだ」

「光栄です」


 ヘーゼンは笑顔で応じる。


 そんな中。


「おい! 酒! さけ持ってこーい!」

「……」


 別のテーブルから、豪快な声がレストラン上に響く。ミセスヴァン大臣はシワの多い顔を、ますます歪めてため息をつく。


「マナーの悪い客もいるようだね。申し訳ない、ゴレイヌ国代表としてお詫びする」

「いえ、とんでもない。大方、ゴクナ諸島の海賊でも混ざってるんでしょう」

「はははっ! 君は、戦の才能だけでなく、ユーモアまであるんだね」


 ミセスヴァン大臣は膝を叩いて笑う。


「私たちの国もヤツらの横暴さには手を焼いていてね。実は、耳の痛い話なのだよ」

「……なるほど」


 ヘーゼンは、少し頷いてワインに口をつける。


「っと。そんなことよりも、ロギアント城陥落の報は、思わず耳を疑ったよ。あの大国、イリス連合国に……こう言ってはなんだが、彼らにとって取るに足らぬ存在の貴国が一矢報いたのだから」

「ありがとうございます」


 老人は痛快そうに笑う。イリス連合国は、ゴレイヌ国にとっても強大だ。同じ小国の立場として、どこかスカッとした心地になった。


「今日は、あのバガ・ズ将軍をどうやって討ったかを、ぜひ聞かせていただきたい」

「それも素晴らしい時間だと思いますが、もっと刺激的な話をしませんか?」

「刺激的な話?」

「私たちノクタール国が次にどこを攻めるか、と言うお話です」

「……」


 歓談の雰囲気が一気に冷め、ミセスヴァン大臣に緊張の色が走る。


「……今日は、非公式の会談だと聞いていたがね」

「仰るとおりです。なので、あなたたちから情報を提供頂く気はない。あくまで、世間話程度で聞いて頂ければ」

「……」


 ミセスヴァン大臣もまた、ワインに口をつける。


「それで。どこを攻めると?」

「イリス連合国のバズラード城を獲ろうかと思ってます」

「……正気か?」


 老人はあんぐりと口を開ける。それはあまりにも予想しない答えだった。まず、間違いなくゴクナ諸島だと思っていた。ロギアント城を獲った今、周辺の治安を安定させるのが不可欠だからだ。

 

 まして、これ以上、イリス連合国を攻めるなど愚策中の愚策。


 加えて、バズラード城は、ロギアント城と同じく、難攻不落の名城だ。いや、周辺にはジルサイド城、レガリア城など、イリス連合国の将軍級がズラリと並んでいる。戦力的にはそれ以上だ。


 しかし、ヘーゼンは変わらず笑顔を浮かべたままだ。


「徹底抗戦ですよ。守っていては、いずれその国力によって押しつぶされる。その前に次々と手を打っていかなくては間に合いません」

「間に合わない?」

「ええ。イリス連合国を潰すのに」

「……っ」


 人のよさげな老人は思わず、ゴクリと喉を鳴らす。


「それは、いくら何でも不可能だ」


 国力が、あまりに違いすぎる。イリス連合国は、ノクタール国の百倍を超える財、土地、兵を保有している。ロギアント城を取ったと言えど、その戦力差は、象と蟻どころでは済まない。


 しかし、目の前の黒髪の魔法使いの瞳は、まったく揺るがない。


「それで、ここからが本題で。っと、その前に1人、呼んでもいいですか?」


 ヘーゼンは振り向き、先ほど叫んでいたテーブルの方に向かって言う。


「シルフィの親分。こっちに来てください」


 

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