未来
やがて、玉座の間に、ジオス王がやってきた。ヘーゼンは先ほどの話をそのまま説明し、各大臣たちは死にそうなほど顔面を蒼白にしながら俯いていた。
そして、各大臣たちが退出した後、ジオス王とトマス大臣のみが残った。ヘーゼンは、手に持っていた資料をその場で手渡す。
「これが人事案です」
「……先ほどは『作成している最中』と言っていたが」
ジオス王は渋い表情を浮かべ、資料をめくる。
「人は待つ期間にほど恐怖を覚えるものです」
「……性格が悪いな」
「そうですか?」
「……」
自覚がないのか、フリをしているだけなのか。ジオス王はため息をつきながら資料を読み進める。
「評価はヤンがしてます。私もおおむね同じ印象です。最終的には、あなた方にお任せしますが」
「……『奴隷牧場』と書いてある横に、否決した場合の役職があるが」
「費用削減のため、私は奴隷牧場行きを勧めますが、あなたのお考えもあるでしょう。代替案です」
「……否決してもいいのか?」
「お任せします。トマス大臣も確認し、修正を加えてください。その判断に、私もヤンも異論は挟みません」
ヘーゼンはキッパリと言い切った。
「……我々に主導権を譲ると?」
「ヤンも私も、ここに来て日が浅い。実務能力の査定には自信がありますが、人脈や人柄などが網羅できていないかもしれない」
「意外だな。そういうことは、あまり考慮に入れないかと思っていた」
ジオス王は素直に驚くが、ヘーゼンは不思議そうに首を傾げる。
「そうですか? どちらかというと、そちらの方が重要なんですがね」
「……」
「仕事をする上で、他者との連携は不可欠だ。上であればあるほど、自身の領分では手の届かないことも増えてくる」
「……」
「ただ、黙って部下の仕事を監視して、口だけ出して行動で示さない無能は困りますけどね。そう言う輩は、肝心なところで責任も取らない。だから、私の評価は奴隷です。そう言う輩は言われたことだけ、やってればいい」
「「……」」
やはり、ドン引きする2人。
「……ヘーゼン=ハイム。あなたが評価する人材とは?」
トマス大臣が尋ねる。
「さまざまな人材が欲しいので、一例を挙げます。例えば、物事を前に進めるリーダータイプ。失敗してもいい。その時は、行動力を評価します」
「……そう言う意味ですと、私は若干そう言うところに欠けている気がします」
トマス大臣は苦笑いを浮かべる。
「あくまで一例です。あなたは、調整能力があるし、そもそもの能力も高い」
「……そう言う意味だと、私は王失格なのだろうな」
ジオス王もまた、ため息をつく。
「失格? 言っている意味がわかりませんね」
「ヘーゼンの言った事柄に、私はどれも当てはまらないよ」
「なるほど……まあ、そう自身で評価されるのは構いません。ただ、評価とは他人からされるものですので、その点もお忘れなきようお願いします」
「……他者から見える私は違うと言うのか?」
「ええ。少なくとも私からの評価はね。あなたは、賢王足る資質の持ち主だと思います」
「……」
「話を進めましょう。次に施策を数案練りました。まずは、平民の役職登用です」
「へ、平民から?」
トマス大臣は目を大きく見開く。
「ノクタール国は魅力の薄い国だ。現状、誰もやっていない魅力のある施策が必要だ。それが、魔法使い以外の役職登用です」
「……そのための粛清か」
ジオス王がつぶやく。
「平民の有能な人材は腐るほど眠っているはずだ。そのため、役職は空けておきたいのです」
「……」
「次に、鉱山の採掘。調べましたが、ここは山地が多い。開発を始めれば、良質な鉱石や宝珠などが採れるかもしれません」
「しかし、それは現状を打破する手になるか? 今にも、滅びようとしているのに」
「今のことだけ考えていては、先へ繋がらない。大枠の方向性を決め、中期の計画に沿い短期の実施内容を決めるのが重要だと考えます」
「……」
「国家の運営は、他国の侵略にさらされても、継続しなければならない。仮に滅ぼされたとしても、よい施策であれば敵国によって取り入れられる。そうして人は前進をしていくのです」
「……」
「奪うことでは何も生まれない。実りこそ、後世に繋がれるものです」
「……不思議だな」
ジオス王がつぶやく。
「おかしいですか?」
「どこからどう見ても簒奪者にしか見えない貴殿が、最も我が国の未来を考えてるように見えるなんて」
「想いは同じですよ。誰もがより良い未来を求めている。それが、個人か、家族か、国か、それよりも大きいものか。ただ、それだけの違いです」
淡々と述べ。
ヘーゼンはお辞儀をして颯爽と去って行った。




