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行動


          *


 ノクタール国の首都ギルヴァーナ。先日は、人通りがほとんどなかったが、今は奇跡の大勝利に沸き上がっていた。


 ロギアント城奪還の報は、激震を以て大陸中に拡がり、その立役者であるヘーゼン=ハイムという将官の名が至る所に駆け巡った。


 それは、主城であるサザラバーズ城でも同じであった。玉座の間にヘーゼンが到着するや否や、ノクタール国の大臣たちが、必死になって群がってくる。


「いや、よくやってくれました」「さすがは、帝国将官」「我々とは違いますな」「これは、歴史的勝利ですぞ」「この調子で頼みます」


「……」


 再三に渡るおべっかをよそに、黒髪の魔法使いは造り笑いを浮かべて、群衆をかきわけていく。ただ、その漆黒の瞳は、彼らの心臓を撫でるような観察を崩さない。


 そして、唯一、彼らとは距離を置き、玉座の間の横にいる外務大臣のトマスに対してヘーゼンは礼を示す。


「ただいま、戻りました」

「……よくやってくれましたな」

「まだまだ、これからです。イリス連合国だけでなく、周辺の勢力も動き出すでしょうから、トマス大臣にもお力を貸して頂きたく思います」


「「「「「……」」」」」


 無視された大臣たちの視線が痛いと、トマス大臣は感じる。元々、彼は大臣たちの中では末席である。ジオス王の側近であったので、相談役として重宝されているが、元々は敗戦処理のような仕事ばかりやらされていた。


「あの、ヘーゼン殿。私は一介の外務大臣であって、どこまで力を尽くせるか……」

「ご安心ください。筆頭大臣への格上げをジオス王に進言いたします」


 !?


「ど、どういうことですかな!? ヘーゼン殿」


 現筆頭大臣のソトミールが叫ぶように問いただすが、ヘーゼンは屈託のない笑顔を浮かべながら答える。


「トマス大臣は、王から最も信頼を得ておりますし適任かと」

「そんな、私も――」

「だって、あなたは、元々チンゴック元王子の派閥だったでしょう?」

「……っ、それは」

「派閥争いに負ければ、第一線を退くのは当然。それを、こちらが新参者だからと言って、知らんふりで居座ろうとするなんて、厚顔無恥も甚だしいですな」

「くっ……しかし、私は能力においてトマス大臣に劣るとは思えません。ただ、王に信頼されているからと言って、彼が私のサポートなしでなにかをできるとは思えません」

「……なるほど」


 ヘーゼンは依然として造り笑顔を浮かべながら、ソトミールの方へと近づいて、その白髪をガン掴みする。

 

「劣るんだよ、この無能が」

「……ひぎぃ!」

「トマス大臣には、勝ち馬に乗るだけしか脳のないお前らとは違う。亡国の危機に瀕した時に、なんとかしようと最前線で帝国との交渉に当たった気骨のある文官だ。その時、お前はなにをしていた?」

「ひだぁ……ひだぁい! や、やめてぇ!」


 ブチブチブチっ


 ソトミールの数少ない毛根がゴリッゴリに抜き取られる。一瞬にして、一部の髪がハゲあがる。


「能力で劣らない? 世間が評価するのは、行動であり、結果だ。後ろから、ただ文句を言うだけで責任を取らない。良い結果が出たものにだけ、乞食のように功績を貰おうと群がる輩は、この国には不要なんだよ」

「ひっ……ひいいいいい……」


 ソトミール大臣以外にも、先ほど群がっていた大臣たちの顔がひきつる。そんな空気を1ミリ足りとも察することなく、ヘーゼンは変わらぬ笑顔を浮かべて答える。


「ヤンには最終の人事案をまとめさせております。重要なのは、この危機の間に、行動に移した者。移さなかった者の選別」

「はっ……くっ……」

「能力は行動を示さないとわからない。二の次です。行動すらしない者は、当然、不必要な人材に分類されますので、そのつもりでいてください」

「ふ、不必要な分類にされたとしたら?」


 大臣の1人が恐る恐る答える。


「まあ、最終的にはジオス王の承認次第ですが」
























「基本的には奴隷牧場に行っていただきます」

「……っ」




 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 牧場って長閑で平和なイメージ。。。 前に奴隷ってつけるだけでエゲツなく凄惨。。。 日本語の可能性を感じますなw カクヨムで最新話まで読了。 ここで振り返って読んでます。 ほんと面白い。 エ…
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