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会議


           *


 ヘーゼン=ハイム。


 人事院でも、どのように評価をすればいいかわかりかねていた。ロギアント城を奪還すると言う大功績を成し遂げた大尉格などは前代未聞だ。


 通常、少佐格から中佐格に昇格するところが、出世の鬼門となるが、功績で言えば、簡単にそれを超えてしまう。経歴とは、その将官の生き方を表す。おいそれと、特別な昇格を許すこともできない。


 だが。


「ここは、中佐格への飛び級昇格でしょう」


 室長のガナール=ドクマンが冷静に答えた。


「あの猛き華(ソファン)のミ・シルを軽く超えるほどの出世だぞ!? あり得ない」

「……」


 エヴィルダース皇太子派閥の一人が、わめく。ガナールは黒縁眼鏡をクイっと上げる。


 確かにバランスの難しい問題だ。


 軍神ミ・シルは、皇帝の寵愛を受け、エヴィルダース皇太子派閥の筆頭格だ。数々の功績を残し、史上最年少で大将の格まで駆け上がった怪物。


 彼女を超えるほどの評価を出すなどと、とてもではないができはしない。


「そうすると、これだけの功績を出しておきながら、少佐格止まりですか? あり得ない」

「……」


 別派閥の者が、激しく反論する。


 日夜、激論が繰り広げられていた。人事院は、エヴィルダース皇太子の管理場所ではあるが、完全なる一枚岩という訳ではない。


 各派閥も権力に食い込もうと、人員を出しているし、彼らにとってはミ・シルの神話的活躍を崩すチャンスでもある。


 純粋な功績評価で言えば、エヴィルダース派閥の旗色が悪い状況だ。


 そんな中、会議室にエヴィルダース皇太子が入ってきた。突然の訪問に戸惑いながらも、即座に全員が頭を下げる。


「ああ、いい。座っていてくれ」


 皇太子は笑顔を見せて内政官たちに着席を促す。


「……どうされましたかな?」


 ガナールが黒縁眼鏡をクイッと上げながら尋ねる。


「いや。今回の件はブギョーナが迷惑をかけたと思ってな」

「そ、そんな。エヴィルダース皇太子が悪い訳ではないので」


 視線を感じたのか、別派閥の一人が言いづらそうに答える。


「いや。皇帝陛下の仰っていたように、の責任だ。たとえ、ヤツが勝手な判断で行ったとしても、それは言い訳でしかない」

「……」


 自分が悪いと言っておきながら、自分が悪くないと言う感じを出す。エヴィルダース皇太子は、相変わらず、このような言い回しが好きだなとガナールは冷静に思う。


 確かに今回の件は、ブギョーナ秘書官の独断と偏見によるものが多い。しかし、それはヘーゼン=ハイムというものの価値を軽んじていたことに他ならない。


 ガナール個人としては、少なからずエヴィルダース皇太子の失態もあると思っている。


 要するに皇太子は『自分が悪いのではない』ということを言いにきたのだろう。しかし、弁明をするのも見苦しい。ならば、監督責任を詫びて、早々に方向転換を図ろうという訳だ。


 振り回された人事院としては、いい迷惑だが、派閥を超えて一枚岩になるのならば、この上ない。


 ガナールは黒縁眼鏡をクイっと上げながら頭を下げる。


「もし、よろしければ助言をいただきたい。人事院としては、彼の評価をどう下せばいいか考えあぐねておりまして」

「おいおい。は、お前たちの意見を聞きにきたのだがな」

「我々が至らず、本当に申し訳ありません」


 エヴィルダース皇太子派閥のルイス=ガルダリア次長もまた頭を下げる。要するに、派閥を越えた落とし所を決めてもらいたいのだ。


「わかったわかった。では、あくまで、参考意見として言おう」

「よろしくお願いします」

「ヘーゼン=ハイムの昇進について、判断は保留にした方がいいな」

「……保留ですか」

「評価をするなと言っている訳ではない。イリス連合国は強国だ。当然、このままで済むはずがない。戦は攻め込むだけが脳ではない。奪った城を、どのように防衛するか。それが、重要だ」

「……」


 確かに、それはそうだろう。しかし、まさか孤軍奮闘で戦わせる訳でもないだろう。完全にロギアント城を掌握した末の昇格人事。まあ、皇太子判断ならば、いい落とし所とも言えるか。


「はっ……わかりました。では、至急、彼らを支援できるような人材を選定します」

「であれば、我が陣営から出そう」

「ほ、本当ですか!?」

「……」


 ルイス次長がこれみよがしに喜ぶ。相変わらずのおべっかぶりに、ガナールは黒縁眼鏡をクイっと上げる。


「ああ。我々の陣営には、守備の面で長けた経験値のある将が星の数ほどいるからな」

「それは助かります」


 エヴィルダース皇太子派閥の人材は潤沢だ。本格的にテコ入れをすれば、大国イリス連合国と言えどロギアント城を守り切れるだろう。ガナールもその点に依存はない。


「一応、候補をまとめてきた」

「……っ、こ、これは」


 リストを机に並べた瞬間、一同が、ゴクリと生唾を飲んだ。

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