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報告2


 その場にいた者たちの顔が、怒られた子どものように下を向く。中でも、エヴィルダース皇太子の表情はより白々しかった。


 ただ、内心では『マズい』と思っているようで、その拳をギュッと握っていた。


 そして。


 沈黙を貫こうとしている皇太子に、皇帝が直接言葉を発する。


「エヴィルダース。聞こえぬのか?」

「は、はい! 申し訳ありません」

「お前、本当に知らぬのか?」


 青く澄んだ瞳が、射抜くような眼差しを向ける。その威圧は、老齢ながら、皇帝たる威厳を十分に感じさせるものだった。


「……はい、お恥ずかしながら」


 皇太子は、声を震わせながら下を向く。


「本当に恥ずかしいな。皇太子ともあろう者が、このような能臣の芽吹きを知らないなんて」

「……」


 皇帝の厳しい声が更に鋭さを増す。これは、皇太子のみに向けたものではない、と臣下たちは思う。だが、全体を叱責する時は、必ず皇太子に苦言を呈する。


 それが、年老いた賢帝の教育方針である。


 帝国における皇帝の地位は、絶大な影響力を持つ。実務面では、実質的には皇太子、また他の皇族、臣下などが行うが、その一言で全ての決定をひっくり返すことができる。


 大部分の組織を皇太子に管理させているのも、後継者に統治の予行演習をさせているからで、下手を打てば容赦なく叱責される。


「有能な臣下の能力を把握せず、どうして将官の人事を決められるのか、に教えてもらいたいものだな」

「……」


 レイバース皇帝もまた、激しい皇族間の競争による、実務を多く経験してきた。人事院にいたこともある。


 経験則から言えば、1年足らずで大尉級に昇進あがるような逸材の存在を、知らないということは、あり得ないことだった。


 皇太子は歯をグッと食いしばりながら沈黙する。


「ふぅ……そのような把握能力では先が思いやられるな」

「……申し訳ありません」

は若くして皇帝になった時。ここに居るヴォルトが、ある若き有能な魔法使いを見いだしたのは知っているだろう?」

「……はい」


 臣は宝。レイバース皇帝は、皇太子や他の皇族たちに、ことあるごとにそう言い聞かせた。この話も、何度聞いたかわからない。


 そして、また同じ話をさせてることへの皇帝の失望を慮り、エヴィルダース皇太子は震えながら下を向く。


「それが、今の帝国の根幹を支える猛き華(そふぁん)、ミ・シルである。若き才能を把握せず、どうやって帝国の未来を支えるのだ?」

「……」


 エヴィルダース皇太子の額から汗がポタリとつたう。普段、温厚なレイバース皇帝とは思えないほどの叱責だった。恐らく、自身が人事院に勤めていた時の記憶がそうさせるのだろう。


「次期皇帝の座に最も近い皇太子に、人材の素晴らしさを知る経験をつけさせようと、の側に仕えるミ・シルをつけさせたが、どうやら無駄になりそうだな」

「……ち、父上。申し訳ありません。若輩の至らぬ愚か者に、もう一度機会をお与えください」


 エヴィルダース皇太子は、その場で手のひらと両膝をつき、ひざまづいた。皇帝の寵愛を受ける最強の軍神ミ・シル。彼女が削られれば、軍務における影響力の低下は避けられない。


 拳を血が出るほど強く握りながら、エヴィルダース皇太子は何度も何度も頭を擦りつける。


「……」


 レイバース皇帝は、なにも言わずに玉座の間を後にした。


「「「「「……」」」」」


 誰もなにも発しない死んだような空気感(ヴォルトだけは、キョトンとしている)。そんな中、エヴィルダースはなにも発さずに、続いて玉座の間を後にした。


           *


 扉を閉めると、そこには皇太子の秘書官たちが待っていた。


「ああの……あどう……でしたでしょうか?」



































「ブギョーナ。お前……ちょっと顔貸せ」

「あひょ!?」

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