表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

291/700

統治


 ロギアント城制圧後の統治。それは、ヤンによって迅速に行われた。この少女はドグマ大将に守備を固めさせた後、速やかに必要な文官を呼び、城内に住んでいる民の把握に努める。


 統治は非常に重要だ。捕虜となった兵たちの把握。食事の配給計画。民への不安の解消。暴動などが起きると、せっかく取った城がすぐさま取り返されてしまう。


 忙しなく仕事が進む中、ヘーゼンもまた忙しなく立ち回る。


「民の様子はどうだ?」

「微妙ですね。もともと、ノクタール国が統治してたんですけど、弱小国家ですからね。不安が大きいのだと思います」

「そうか……」

「カク・ズさんを呼びますか?」


 ロギアント城の規模は、かなり大きい。地理的にも重要な拠点なので、今後、激しい奪還戦が予想される。確かに、防衛面の強化は悪くない提案だ。


 しかし、ヤンの提案に対しヘーゼンは首を横に振る。


「いや。ドグマ大将に統治させた方が民は安心するだろう。少し、他の少将を移動させる形でバランスを取ってくれ」

「わかりました。すーもそろそろ休まれては?」

「まだ、やることが千個ほどあるんだが」

「はいはい。私がやっておきますから。そのために私を呼んだんでしょう?」

「……わかった」


 ヘーゼンは、この少女がいなかった時のことを考えた。少なくとも計画は5年ほどは遅れたのではないだろうか。


 感謝代わりにヤンの頭をガシガシとなでた後、ヘーゼンはフラフラっと自室へと戻った。さすがに、少しだけ疲れた。放出した魔力が戻るのは、いつくらいになるだろうか。


 通常の魔法使いは、数日あれば戻るが、ヘーゼンの魔力量は破格だ。これだけ使用すれば数ヶ月は怪しい。


 ベッドへ寝転がると、さらに眠気が襲ってくる。カク・ズ、ギザール、ともにフル稼働中なので、熟睡はできない。暗殺の危険もあるので、身体だけを休ませて、脳みそは仮眠状態にする。


 ……としたいのだが、問題が山のようにあり思考が次々と流れ込んでくる。


「くそ……駒が足らない」


 1つの城を取るだけで、このザマだ。これから、統治する城が増えていくにつれ、指示が行き届かないことも増えてくる。


 ヤンは常にドグマ大将と行動するよう命じてある。あの老人は優秀で、周囲の部下もよく守っている。まず、暗殺の心配はない。


 だが、そうなればヤンをロギアント城に貼り付けざるを得ない。巡回した時に感じだが、民はドグマ大将を慕っている。ノクタール国の領地であった頃、若き彼がかなり奮闘したようだ。


 ここの統治は、ドグマ大将でなければ難しいのだ。


 とすれば、ヤン並みの内政官。もしくは、カク・ズ並の戦士。贅沢を言えばキリがないが、欲しい。


「はぁ……」


 とは言え、得難いことはわかっている。ヤンはひょんな幸運で手に入れたが、カク・ズは違う。ヘーゼンが徹底的に仕込んだ。


 あと、目をつけた駒は、領主代行のラグ。商人のナンダル。元将軍のギザール。変態のモズコール。秀才少女のシノン。


「ダメだ」


 どいつもこいつも塞がっている。


 ヘーゼンは起き上がって手紙を書き始める。


 そして、30分ほどが経過した時、ドアがガチャりと開いた。


すー! 休んでくださいって言ったのに!」

「っと。しまった」


 プンスカ怒るヤンの声で、つい仕事をしていたことに気づいた。


「そんなに働き過ぎると、早死にしますよ」

「その可能性は低いな。魔力の高い魔法使いは長寿傾向にある」

「はいはい。ウンチクはいいですから。ベッドに入って寝てくださいよ。私がここで働けば、護衛もつくでしょう?」

「……そのために来たのか?」

「働く場所なんて、どこだって同じですから」

「……」


 ヤンはそう答え、机に置かれた大量の書類を処理し始める。ヘーゼンはその様子をしばらく見ていたが、やがて、フッとため息をついてベッドの中に入った。


「おやすみなさい」

「……ノクタール国の将校に寝首をかかれる可能性は?」

「その時は、自分の性格の悪さを呪い、素直に死んでください」


 ヤンは笑顔で答えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
モズコールがメンバーの中に入ってるだと⁈
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ