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交戦


          *


 ヘーゼンの眼前に来る男が、バガ・ズ将軍であることは一目でわかった。その佇まい。雰囲気。遠くからでも感じる強力な魔力。


 瞬間、強者の匂いを感じ取り、背後に8種類の魔杖を出現させた。


 ヘーゼンは普段から物を見えなくすることができる魔杖の『幻透』で、これを隠している。そして、自在に物質を動かすことのできる魔杖『念導』で、数メートル四方の範囲であるが自在に動かすこともできる。


 バガ・ズ将軍は、かなり驚いた表情を浮かべたが、その動揺も一瞬だけだった。このままいけば、数十秒後に互いに魔法を出し合うことになる。


 ヘーゼンにおける戦闘の考え方は単純だ。


 魔法使い同士の戦闘は、後出しが強いということだ。


 ある弟子に戦闘に勝つ方法を尋ねられた時、ヘーゼンはこともなげに『じゃんけんをしているようなものだ』と答えた。グーを出せばパー。チョキを出せばグー。パーを出せばチョキ。


 要するに相手に対応できる手段を常に持ち、時間内にそれを出せば勝てる。


 理論上では確かにそうだ。だが、弟子は納得のいかない表情を浮かべる。数多ある経験則。天才を越えるセンス。類い希な思考能力の高さ。莫大な魔力。当然、それらが、備わっているが故にできることだと。


 当時、子どもだった弟子はそう不満を口にし。


 その後、『できるよう、修行だ』と雪山の崖から突き落とされた。


 警戒すべきなのは、グーがより強いグーであること。偽りのパーで、実はそれがチョキであること。ヘーゼンは一瞬だけ背後を振り返った。


「気をつけてください。ジカイ軍師の魔杖は……×○▽○×」


 先ほどからゴメス少佐がなにかを叫んでいるが、唇だけでは上手く判断がつかない。今、ヘーゼンは、無音の世界にいた。


 鼓膜が閉じているからである。


 敵の軍長から音波型の魔杖を喰らった時に、即座に脳内で耳の機能を遮断した。実質的に、ヘーゼンの魔力はその魔杖では減らされていなかった。


 ヘーゼンはあらゆる戦い方を想定して訓練を行っている。目が見えなくなった時。耳が聞こえなくなった時。なにかしらの身体の機能が損傷した時。動けなくなった時。魔力が封殺された時。身体の機能を脳内で意図的に封じる術を、その時に学んだ。


 魔杖の全てを把握することはできない。だが、効果を見た時に、瞬時に判断して対抗することはできる。


 距離が近づいてきた。そして、ある地点へと入った瞬間、身体の異変を確認した。


 その間、コンマ数秒。


 左の薬指を動かそうとした時、右指の薬指が反応した。右の親指を動かした時に、左の親指が動く。左の眼球を上に動かした時に、右の眼球が下に動く。


 左右上下の感覚が真逆だ。


 瞬間、ヘーゼンは全ての身体機能を確認する。指・腕・関節・眼球・首・足。どこを、どう動かせば、どうなるかを感覚的に確かめた。全て問題なく動かせることを確認し、その魔力の元を辿った。


 そして、1秒後。


 右手に携えていた地空烈断じくうれつだんを投げ捨て、手に弓矢状の魔杖を握る。まるで、なにかを射るかのように構える。


光白燕雨こうびゃくえんう


 唱えた瞬間、一斉に光の矢が弾け飛ぶ。


 数百以上のそれは、すべて不規則で、バガ・ズ将軍に向かって高速に飛翔する。


 結果として。


 それは、()()()()()を一瞬にして肉塊にした。


 この間、バガ・ズ将軍が攻撃に転じることはなかった。この魔法は自動追尾でギリギリまで彼を狙うように照準ロックしたからである。


 そして、防備を固めた将軍を嘲笑うかのように、矢は軌道を変えてジカイ軍師を串刺しにした。


 数百本あまりの光の矢を受ければ、1本1本の威力が弱かろうと、軍長クラスではひとたまりもない。無残な肉塊となった軍師を眺めながら、バガ・ズ将軍は、怒ると言うより、驚いた表情をして笑い。


 ヘーゼンもまた、笑った。






















「これで、邪魔者はいなくなったな。やろう」

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