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ヅナオ・ガ軍長


          *


「い、イブサメ軍長……おのれー!」


 戦友の死に憤ったヅナオ・ガ軍長は、すぐさま斬鋼糸ざんこうしを振るう。しかし、ヘーゼンの前に次々と死兵たちが阻む。


「くそ……外道がぁ!」


 ヅナオ・ガ軍長は、構わず斬鋼糸ざんこうしを連発し、死兵たちを乱雑に斬り刻む。大量の返り血を浴びるが、まったく気にしないで、ヘーゼン=ハイムと名乗った魔法使いに向かって全力で駆ける。


「クク……」


 そんな様子を嘲るように、ヘーゼンは余裕な笑みを浮かべて手を挙げる。すると、前方に控えていた死兵たちがヅナオ・ガ軍長の間に入って肉壁となる。


「逃げるな! 正々堂々と戦え!」

「落ち着け!」


 そんな中、2人の軍長が合流する。ダレオ=デーグとクドカン=ローズである。


「熱くなるな! あの、ヘーゼンという魔法使いに乗せられるな」

「し、しかし……」

「1人では決して勝てない相手だ。冷静に分析して倒すぞ」

「……いや。ヤツの魔力は底をつきかけている。今がチャンスだ」


 頭に血が昇っている訳ではない。相棒の血爆炎ちばくのほのおは、魔力すらも減少させる。イブサメ軍長の行動は決して無駄ではない。


「ヅナオ・ガ軍長……」

「信じてくれ! イブサメ軍長の死を無駄にするな!」


 いいヤツだった。無愛想な自分に対して、常に明るく、声をかけてきた。どれだけ冷たくしても、ウザがっても、構わずに絡んできた。時には、その能天気さにウンザリすることもあったが、それでも命を預け合える間柄だった。


 いいヤツだったんだ。


演技ぶらふだ! 血爆炎ちばくのほのおで、ヤツの魔力はーー」

「おい、ヅナオ・ガ軍長……その炎」

「えっ?」


 ダレオ軍長とクドカン軍長の顔面が、こちらを見て蒼白になっている。ふと、自身の手を見ると黒い炎を纏っていた。


「……イブサメ軍長」


 戦友の頼もしい黒い炎を見た瞬間。


 一瞬、生きていたのかと思い、視線を左右にズラした。


 しかし、やはり、そこにあるはずの者はいない。


 代わりに。


 自身の身体が一瞬にして熱くなり。


 おもむろに視線を下に移動した。


 コンマ数秒遅れて理解した。


 身体が……全身が焼かれている。


「ひっ! なんでなんでなんでなんで……」


 この黒い炎は魔力依存だ。魔力の強い軍長クラスでは、すぐに焼け死ぬことはない。


 だが、わからなかった。なぜ、血爆炎ちばくのほのおが発動しているのか。最初は、イブサメ軍長の死兵化を疑った。まさか、軍長クラスですら、死兵とすることができると言うのか。


 すぐにヘーゼンの方を見ると。


「バカ……なっ……」


 ヅナオ・ガ軍長は唖然とした。


 その手に持っていたのは、間違いなくイブサメ軍長の魔杖、血爆炎ちばくのほのおだった。真紅の魔杖から止めどない魔力を感じる。


 あり得ない。


 通常、他者の魔杖と適合するには、かなりの時間を要する。業物わざものであれば、数年掛かってもおかしくない。


 そして、適合してから更に数年間の使用を経て、やっと本人並みの使い手になると言われている。


 もちろん、その資質を備えている魔法使いであると言う前提でだ。


 初見で、しかも奪って数十秒足らずの魔法使いに。しかも、軍長クラスの扱う業物わざものの魔杖が操れる訳がない。


 絶対に、あり得ない。


 しかし。


 目の前には。


 浴びた返り血が、自身の皮膚をドロドロと溶かしていく。この灼熱と痛みが、どうしようもなく現実であり、限りない悪夢であることを。


「ぐっ……はぁ……ひっ……嫌だ……嫌だ……」


 馬から転げ落ち。何度も何度も魔力を全身に纏わせて、それを振り払おうとする。しかし、血爆炎ちばくのほのおの威力は、紛れもなくイブサメ軍長本人並みの出力が出ていて、消すことができない。


 燃え盛る自身の身体から、ヅナオ・ガ軍長は死を悟った。沸き起こるのは、止めどない疑問だった。なぜ、イブサメ軍長クラスの魔法を繰り出せるのか。


 灰になっていく身体に、思考と視界だけがスローモーションになり、それは黒い魔法使いの下へと向かう。


 そして。


 薄れゆく意識の中で、黒髪の魔法使いがつぶやくのを聞いた。






























「やはり、初見だと威力がないな」

 


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