機動
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地空烈断。地面に先端をつけ続けることで、魔力を鋭利に研ぎ澄ます。長い時間をかけること。また、膨大な魔力を消費するなど代償は大きいが、その分、効果も大きい。
結論から言うと、眼前の敵が一掃した。
「ぜぇ……ぜぇ……」
ヘーゼンは汗だくになりながら、そして、息を切らしながらも、その馬の走りを止めることはない。
「だ、大丈夫ですか!?」
後ろからゴメス少佐が声を掛けてくる。
「ぜぇ……はぁ……問題ない。それより、左右から、来るぞ」
「はい!」
横から擦り寄るように、敵兵たちが攻撃を開始する。イリス連合国の軍長クラスは当然、ヘーゼンに向かって行くが、彼らの下には強力な部下たちがいる。ノクタール国の将たちは、側面から彼らの攻撃を防がなければいけない。
「はぁ……はぁ……」
むしろ、ヘーゼンの意識にはそちらが入っていた。求めるのは、自分に攻撃を集中させること。それによって、他への攻撃が軽くなる。
「はぁ……」
ついてくる味方を死なせないこと。軍の力は信用しているが、数人落とされれば危険に陥るほどのギリギリの戦闘だ。ヘーゼンは、息切れをしながら馬に携えていた魔杖を、手に取り、地面に突き刺した。
すると、地中から死兵たちが次々と出現する。その数は、数千にも及ぶ。それらは一斉に動き出し、軍の壁になるように防備を固める。
「これが、夜叉累々……なんという魔法だ」
後方で走るドグマが生唾を飲む。作戦では、もちろん聞いていた。兵たちにも言い含めている。しかし、こちらも2等級ほどの威力を弾き出すとは。
「5等級宝珠を使用した魔杖です。師の命令を、なんでも聞く忠実な死兵を生み出すことができます」
「……話には聞いていたが、これほどの数を召喚するとは」
「死者の血と土の混合物から錬成する魔法なので、地空烈断との相性が良いです」
ヤンが冷静に分析している間に、死兵たちはヘーゼンの後方へと拡がっている兵たちを助けるように動いている。
イリス連合国の兵たちの戦線は乱れて混乱に陥っていた。それを立て直すために、軍長や副官たちが必死に劇を飛ばしている。
「これで、魔法の使えない兵たちに対しては有利に働くでしょう。あとは、ノクタール国の将たちが落とされなければ、なんとか戦線を維持できます」
「し、しかし。これだけの魔法を連発して大丈夫なのか!? それに、ヘーゼンが集中して狙われることも」
「問題ありません! 殺しても、死にませんから。絶対。残念ながら。最悪なことに」
「……信頼しておられるのだな」
「どこからの文脈で!?」
しみじみと言うドグマに対して、ヤンがガビーンで返す。
「と、とにかく。作戦通り、死兵を無視ししながら敵と戦ってください。あくまで、守備と機動を重視して。師の支援は無用です」
「……わかった」
ドグマは各部隊長に伝令を送った。要所要所で、ノクタール国の中将、少将が配備しているのでイリス連合国の軍長と言えど、力負けはしていない。
対して、イリス連合国の兵たちは、なかなか戦線が落ち着かずに、これ見よがしに動揺をしていた。立ち塞がる死兵たちに対して、馬で避けようとするが、相手はその進路めがけて衝突してくる。
落馬した者たちは、次々と囲まれて死兵の餌食となった。死兵たちの格闘能力は高くない。一般の兵であれば容易に倒せるものだが、壁役としては大いに効果を発揮している。
抜けてきた強者に対しては、それぞれ戦いが始まるが、ドグマが魔杖を駆使して兵たちを助ける。
「地界勇漲」
能力強化型の魔法である。広範囲の味方に対し、防体強化と魔防強化。通常、一撃で両断されるほどの斬撃を、一度は耐えることができる。魔法においても、衝撃時に約一等級ほどの威力を軽減する。
「凄い凄いー」
「ふっ……元々、我が軍は守備に秀でている。防御に特化させることにおいて、そうは戦線を崩すことはない」
「地味ですけど、いいですね。その調子です。地味ですけど」
「……あんまり、地味を連呼せんでくれるかな」
ドグマは、悲しげにつぶやいた。




