攻防
30分後。大将のドグマ率いる軍の幹部たちは、訓練場まで到着した。すでに、そこにはヘーゼンが立っていた。
「作戦会議は終わりましたか? では、始めましょうか」
「……その前に、2ついいか?」
ドグマが冷静に問う。
「ええ、どうぞ」
「この戦いの勝ちは『相手が戦闘不能にすること』。ルールは、『互いになんでもあり』」
「はい」
「……わかった。では、やろう」
冷静にそう口にして。ドグマの部下たちは配置へとつく。彼らは標的をグルリと取り囲むように移動するが、ヘーゼンは微動だにしない。
数十秒後、360度の完全な包囲が完了した。
その余裕な立ち振る舞いが気に入らなかったのか、中将のジミッドが苛立ちながら叫ぶ。
「猛虎斧砕!」
巨大な戦斧のような魔杖を地面を拾うように振るう。
すると、土がシャーベットのようにえぐれ、巨大な塊がヘーゼンに向かって襲いかかる。
「いい魔杖だ。集団戦では、重宝するだろう」
しかし。
ヘーゼンは微動だにしない。
瞬時に発生した氷の障壁が、ヘーゼンをガードする。
「くっ……無敵か、その魔杖は?」
「そんな訳ないでしょう。例えば、雷切孔雀などであれば、その速度故に反応ができない。まあ、そちらの魔杖は単純に力不足です」
「……」
雷鳴将軍ギザールの愛器として有名な魔杖だ。当然、弱小国家にそこまで大層な魔杖はない。
しかし、数的にはこちらが有利だ。
「……その余裕がいつまで持つかな?」
ドグマが手を挙げると、部下たちは一斉にその魔杖を振るう。
360度から、さまざまな攻撃がヘーゼンを襲うが、見事に全て氷の障壁が、遮断する。
「バカな! なぜ、氷如きが破れない!?」
「当然、ただの氷ではない。私の魔力が相乗されてますので、相当な硬度を誇りますよ」
「……っ」
「そちらの魔杖を見ると、いいとこで5等級。あとは、6等級と7等級ですか……そんな貧弱な攻撃では、もちろん破ることはできない」
ヘーゼンは以前として余裕の表情を崩さない。
しかし。
ドグマもまた冷静な表情を保ってままだ。ヘーゼンは少し拍子抜けしたように言葉を続ける。
「さて……これで、もうタネ切れですか? これだと、随分期待外れですが」
「……それはどうかな?」
そう笑い。
ドグマは手を上げて、合図を送る。
すると。
上空から、軍人のバルスートが刀型の魔杖を振り下された。
360度の攻撃はダメだった。
だが、視界に入らない攻撃ならば。
「惜しいですね」
「くっ……」
それがヘーゼンの元へ届くことはなかった。
氷の分厚い障壁が長尺に伸びた十数メートルの刃をも防いだからだ。
「くそっ! 上空からすらダメなのか」
バルスートの顔に狼狽が浮かぶ。
「いい攻撃でしたよ。ジミッド中将たちの総攻撃で気をそらし、こちらの視界の外から全力の一突きを叩き込む」
「……」
思考外の攻撃に成功したと思った。先ほど軍務室にいた者以外の強者バルスートを呼び出し、城へと待機させた。
そして、同様怪力を備えた魔杖を持つガナダンナが彼を上空へと飛ばす。
必殺の戦術すらも、効かないのかとドグマは思わず歯を食いしばる。
一方で、ヘーゼンは感心したかのように言葉を続ける。
「この魔杖が自動追尾じゃなければ、人数が前提だと思い込まされていれば、威力がもう少しマシであれば頬に傷くらいはつけられたかもしれませんね」
「……くそっ! 化け物め」
ジミッドもまた、悔しそうにつぶやく。
だが。
その瞬間、ドグマはニヤリと笑い。
つぶやいた。
「1.5メートルほどか……勝ったな」
瞬間、地中から男が出現した。
「土竜双牙」
殺った。
ドグマも思わず拳を握った。
上空からの攻撃は、あくまで囮。ドグマが測りたかったのは、ヘーゼンの魔杖の追尾範囲だった。ヘーゼンの周囲何メートルまで守るか。逆に、そこまで近づくことができれば、その魔杖は発動しないという仮説を立てた。
貫いた刃を塞いだ氷は、1.5メートルの距離まではついてこなかった。寸前のところで停止している。ならば、その中での攻撃であれば、ヘーゼンの魔杖は発動しない。
その作戦は見事にはまった。本音を言えば地中からのゼロ距離での攻撃が望ましい。しかし、土の中から相手の場所をピンポイントで捕捉することはできない。そこで、上空めがけて攻撃をして、地中へと叫ぶことで、範囲の大枠を伝えることが可能だ。
ドグマは初見で、このヘーゼンという男がかなりの使い手であることを見抜いた。そこで、二重にも三重にも罠を張った。
ヘーゼンの魔杖は強い。
しかし、これ以上の強者などいくらでも見てきた。
ドグマは勝利の確信を持って笑った。
そして、その双爪は確実にヘーゼンの胴体を貫く。
だが。
「いい攻撃だ」
「……っ」
遥か先の場所で。
ヘーゼンは笑みを浮かべてつぶやいた。




