表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

255/700

譲位


「……」

「……」

「「「「……」」」」


          ・・・


 しばらく、静寂の時が流れた。和やかなお祝いムードの中、誰もが言葉の意味を見失った。このヘーゼン=ハイムという男は、なにを言っているのか。


 トマスは、ゴクリと喉を鳴らして、恐る恐る尋ねる。


「へ、ヘーゼン殿。いったい、なにを?」

「えっ? 申し訳ない、オブラートに包んだつもりでしたが、わかりにくかったですかね」

「……っ」


 オブラート? 


「では、はっきり言いますね。マラデカ王には引退してもらって、ジオス王子にその座を譲ってもらいたいんです」


 !?


 誰もがわかるような形で。帝国のよそ者が、王に対して直々に引退勧告。とんでもない異常事態を前に、その場にいた大臣たちが喚き散らす。


「じ、ジオス王子に!?」「ど、どう言うことだ! あの方は皇位継承最下位だぞ!?」「それは、いつ、誰が、どのようなプロセスで決めたんだ!?」「そもそも、なぜ勝手に貴殿が王の交代について決める権限があるのだ!?」「そうだ、越権行為も甚だしい!」


 当然だが、猛反発。これ以上ないくらいの怒号をもって、口々に反論を浴びせる。


「……全員反対と言うことですか?」

「当たり前だ! こんな、ふざけた越権行為は聞いたことがない。誰か、この男を摘み出せ!」

「……」


 ヘーゼンは憤慨しながら叫ぶ大臣の方へ近づく。


「な、なんだ!?」

「内務大臣ウカンム=リー。あなたは3年前に、帝国側の高官から賄賂を受け取ってますね?」


 !?


「なんだ、それは!? わ、私はそんなものは知らない」

「証拠ありますよ。ほら」


 ヘーゼンはニッコリと笑顔を浮かべ、1枚の書類をウカンムに手渡す。


「ご丁寧に方筆で書かれるんだから。裏取り証言も時系列の整合性確認も至極簡単でしたよ」

「あが……あががが……」


 方筆は魔力の込められた特殊な契約書類である。偽造もできないので、重要な取り決めをする時に使用する。


「大方、帝国から裏切られないよう書かされた書類でしょうが、不正をなさる時は、あまり相手を信用しない方がいい。そうでなければ、こんな風に汚職の証拠を残すことになりますからな」


 そう笑って。


 ヘーゼンは隣にいた秘書官から大量の書類をもらって放り投げる。


 パラパラ、パラパラと。


 書類が紙吹雪のように舞い。


「はわーっ……はわわわわっ……」


 その書類の海をウカンムが泳ぐようにかき集める。


「あれ、目を背けましたね?」

「……っ」


 ヘーゼンの視線の先をトマスが見ると、多くの大臣たちが視線を合わせないように下を向いている。


「お、おい……どう言うことだ?」

「簡単なことですよ、トマス大臣。イリス連合国を裏切って帝国に寝返ると言う決断を行ったのはマラデカ王だ。しかし、そこには家臣の甘い助言があった。賄賂塗れの汚い助言がね」

「……っ」


 トマスは耳を疑った。ノクタール国は貧乏だが、それ故に強い団結力があると信じてきた。しかし、ヘーゼンの話を信じるならば、他ならぬ家臣たちが王を裏切っていたことになる。


「まあ、それも決断する王の責任です。彼らは単純に甘い誘惑をしたに過ぎない。専制君主制とは、そう言うものです」

「……」


 先ほどの怒号が嘘であったかのように、誰もなにも発しない。


「誤解しないでほしいのですが、血筋による継承権は否定しませんよ。それは、王の神格化をより容易にしますからね。しかし、より優れた王は、帝国が決めます」

「……っ」

「だが、あなたはお役御免だ。いや、優秀なジオス王子を産んだのだから、種馬としては優秀なのでしょう。今後は、子作りだけに専念して、残る余生を安寧にお過ごしなさいませ」

「……はっ……くっ」


 ニッコリと。


 ヘーゼンと言う男は、暴言過ぎる暴言を満面の笑みで浴びせる。


 そして、横暴に次ぐ横暴。


 いや、横暴どころじゃない。完全に、徹底的に、ノクタール国を帝国の支配下に置こうとしている。


「と言うことで、いいですか?」

「よ、よくない! い、いい訳ないだろう!」

「……」


 ヘーゼンは黙ってつかつかと近づき、そのまま、マラデカ王をすっ転ばして足でその顔を踏みつける。


「そこをなんとかならないですかねえ? 無能な王は最もいらないんですよ」

「ひっひいぃ! お、お前たち」

「いいんですか? 我々に従わないと言うことは、帝国の敵となると言うことですよ?」

「くっ……」


 嫌なやつ通り越して、憎たらしい。


「皆さんも別に王族であればいいんですよね?」

「そ、そんな訳ないじゃないですか! キチンと王が次の王へ指名するという崇高な儀式が……」

「だから、指名させればいいんですよね?」


 !?


 そう言って、ヘーゼンは王にマウントを取ってぶん殴り始める。


「指名しろ」

「はぐっ……」

「指名しろ」

「あぐっ……あぐぅぁ……」




















「指名しろ……指名しろ……指名しろ……指名しろ……指名しろ……指名しろ……指名しろ……指名しろ……指名しろ……指名しろ……指名しろ……指名しろ……指名しろ……指名しろ……指名しろ……指名しろ……指名しろ……指名しろ……指名しろ……指名しろ……指名しろ……指名しろ……指名しろ……指名しろ……指名しろ……指名しろ……指名しろ……指名しろ……指名しろ……指名しろ……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ