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捕虜



 数分後、ギザールの案内で、ヘーゼンは、地下牢へとやってきた。そこには、やつれた表情をした老人たちが3人いた。いずれも、外の物音に対して怯えた表情を浮かべている。


「こいつらが、帝国のボン――捕虜たちだ」

「ひっ……」


 ギザールは、ついつい出そうになった本音を、オブラートに言い直した。本音を言うと、ガダール要塞をむざむざと陥落させた戦犯に気遣う必要などはない。


 しかし、腐っても帝国将官である。ヘーゼンが、今後どのように利用するかは見当もつかないので、過激な表現は控えることにした。


「……そうか」


 一方で、ヘーゼンは観察するような視線を送りながら、深々とお辞儀をする。


「初めまして、私はヘーゼン=ハイムと言います。帝国の将官としてノクタール国に派遣されました」


「「「……っ」」」


 老人たちは『帝国の将官』という言葉を聞くと、信じられないほど明るい表情を浮かべて喜ぶ。


「た、助けに来てくれたのかぁ!」


 1人の老人が喜んで檻にへばりつく。


「私は大佐のバッカス=ロークデナだ。は、早くここを開けてくれ」

「……他の方々のお名前をお伺いしても?」

「わ、私は中佐のチンシル=バゴバ」

「同じく中佐のブブゴン=ガナズバだ。わはは、やっと助けが来たか」

「……」


 2人とも安堵した表情を浮かべた。


「あの、ガイアス=ジャンス少佐はどこに?」

「あ? ふん! ヤツはすでに我々が斬首した。バッカス大佐の作戦に唯一反対を唱えたのでな」


 チンシル中佐がそう吐き捨てると、ヘーゼンは少しだけ目を見開き、やがて、小さくため息をついた。


「他、下士官の捕虜は?」

「隣の牢獄に帝国兵が500人ほどいるな」

「……そうか」


「いや、やっと牢獄の生活ともおさらばできる」「そもそも、なんで私たちがこんな目に」「本当によくやってくれた。貴殿の働きは帝国に伝えておく」「いや、しかし。このままおめおめと帰れるか?」「そうですね。ここに残ってなんとしてもイリス連合国を打ち砕かねば」「まさしく。でなければ、まるで我らが敗残者扱いではないですか」「そうだな。ヘーゼン=ハイム殿。我らも貴殿とともに戦おう――」


「では、隣に行こう。この者たちは、奴隷牧場に送れ」

「……」

「……」

「……」


「「「……はっ?」」」


 3人の聞き返す声は一致した。


「いいのか? いずれも、大佐、中佐級だぞ?」


 ギザールが老人たちに視線を送りながら尋ねる。


「必要ない。唯一、ガイアス少佐が気になっていたのに残念だ。このゴミどもも、敵国の捕虜ならば利用価値もあるが、味方であれば不要だ。戦死で報告処理して、奴隷牧場で有効活用しろ」


「き、貴様……なにを言っている?」「そんなこと許されるはずもない!」「私たちはエヴィルダース皇太子殿下の派閥に属しているのだぞ!?」「わ、我々を解放したら報奨は望むままにしよう。約束する」「我々を甘く見るなよ!」「と言うか、そもそも貴様はなんだ!? 少佐? 聞いたことないぞ!」


「……いいのか?」

「ああ。帝国に返しても、懲罰を避けるためにノクタール国に責任を転嫁するだろう。生かすだけで厄介な者も世の中にはいるんだ」


「「「……っ」」」


 一言すらも。彼らの話に耳を傾けず。ヘーゼンは淡々とギザールと話を続ける。


「まあ、大佐及び中佐級だからな。魔力だけは高い可能性はある。拷問にかけて奴隷契約を結ばせれば、まだ使い道もあるのかな。魔力抽出とか、肉体改造とか……実験道具モルモットとして」


「「「……っ」」」


「……残念だったな。貴様らにとっては悪魔の使いだったらしい」


 ギザールは、絶望しきった彼らに苦笑いを浮かべ。


「私も残念だ。こうも無能だと、戦闘では使い道はない」


 ヘーゼンは、そうつぶやきながら地下牢を後にした。


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