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攻略


          *



「陽の上がる前に落とす」


 遡ること半日前。ガダール要塞から数キロほど離れた地点で。一千人ほどの傭兵を引き連れてたヘーゼン=ハイムが口にした。


「正気……じゃないんだったよな」


 元ディオルド公国将軍のギザールは、呆れ果たような苦笑いを浮かべる。


 要塞の規模としては、中の下ほどだろうか。しかし、四方に張り巡らされた巨大な壁は全て鋼鉄。高さも申し分なく、300メートルまで近づけば、たちまち矢の餌食となる。難攻不落の要塞であることに疑いの余地はない。


 戦力はかなり心許ない。


 かねてから商人のナンダルを通じて私兵の傭兵団の募集をかけていたが、集まったのはせいぜい数百人。以前から鍛えていた兵団を合わせて合計一千人ほど。


 対してガダール要塞の人数は万を超える。


 一般的に、要塞を落とすには10倍の兵数と継戦能力が必要とされるが、それらは10分の1にも満たない。


 しかし、ヘーゼンはこともなげに答える。


 それをなんとかするのが、魔法使いというものだ、と。


 今回はヘーゼンとカク・ズが単独で撹乱。ギザールが一千の兵を率いるが、その表情は依然として浮かない。


「仮に、攻め込んだとしても人員的に要塞を制圧できるかな?」

「ガダール要塞は落とされて日が浅い。捕虜になった兵たちを煽動すれば制圧は可能だ」

「……その役割は誰が?」

「期待しているよ。元将軍の統率力を見せてくれ」

「……」


 ヘーゼンはニッコリと肩を叩き、嫌そうな表情を浮かべたギザールは、その手を雑に払う。


「しかし、侵入するにしてもまずは要塞まで近づけなければ」

「陽動はカク・ズの仕事だ」

「え、ええ? 俺1人?」

「安心してくれ。準備はしている」


 露骨に不安そうな表情を浮かべる巨漢に対し、ヘーゼンは笑顔で馬車の荷台の布を外す。そこには、先端が鋭く尖った銛のような大量の魔杖があった。


「ぐ、紅蓮をこんなに」

「100本ある」

「……っ」


 紅蓮。一撃に特化した魔杖である。1日1回しか使えない燃費の悪い魔杖だが、その威力は8等級並みの威力である。質の悪い宝珠については、今回、これらを製作するために使用した。


「……しかし、それらでなんとかなるものでもないぞ? あくまで奇襲が一方であれば、そこまで戦力は散らせない」


 ギザールは冷静に分析をする。


「ああ。あくまでカク・ズは西門担当。北門は僕が《《これで》》受け持つ」


 そう答えて。


 ヘーゼンが新たな魔杖を取り出した。


「……銘は?」

火竜咆哮かりゅうのほうこう。多人数戦に特化した5等級の魔杖だ」

「なるほど。先日はそれを製作していた訳だな」


 ギザールは呆れたように感心する。


「しかし、ラグに渡した夜叉天奏やしゃてんそうと合わせて2本。紅蓮を100本。それを、数週間で完成させるとは、にわかには信じがたいな」

「いや。他に7本だ」

「……は?」

「5等級の魔杖を他に6本。4等級の魔杖を1本製作した」

「……っ」


 ギザールは馬鹿げていると思った。


 銘がつくほどの魔杖が製作できるのは、帝国でも100人といない。しかも、誰もが数年がかりの着想を練って、半年がかりで製作するものだ。


 当然、数日間で、銘がつくほどのレベルのものを製作する魔杖工なんて、帝国中探してもいない。


 領主代行のラグに与えた魔杖『夜叉天奏やしゃてんそう』を入れると9本。一本製作するのに、1日もかかっていないような計算になる。


 そして、先日、ラグと対峙したが、間違いなくギザールの所有する雷切孔雀らいきりくじゃくと遜色のないレベルのものだ。いや、彼の性質に合わせた着想のものだと考えれば質としては上回っている。


 あまりに規格外過ぎて、笑えもしない。


「実践で使うのは初めてだから、予想外のことは起こり得る。そこは、他の魔杖を使用して補完する」

「はぁ……まあ、心配はしないよ」


 諦めたようにつぶやくギザールを無視して、ヘーゼンはカク・ズに向かって指示をする。


「君は紅蓮の投擲を開始し、門から出てきたら凶鎧爬骨きょがいはこつで殲滅しろ」

「う、うん。わかった」

「調査したところ、カク・ズの脅威になる魔法使いも魔杖も見当たらなかった。恐らく、難なくできるだろう」

「……あの、ヘーゼン。俺は?」


 特に指示のないギザールが怪訝な表情で尋ねる。


「上手くやってくれ」

「な、なんだその雑な指示は!?」

「うるさいな、いちいち将軍級に指示などするか。大まかな戦術は伝えた。いい感じにやって、いい感じに制圧してくれればいい。それとも、僕の指示が必要か?」

「ぐっ……」


 なんて嫌なやつなんだ、とギザールはブツブツとこぼす。




















「では、やるぞ」


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