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ノクタール国


          *


 ノクタール国。西側の帝国、東側のイリス連合国に挟まれた極小国である。北にはタラール族からの侵略を受け、南の島々を拠点としたゴクナ諸島の海賊から上納金を納める不平等条約を結ばされている。


 戦略的な要地であることから、帝国との同盟を結んではいるが、実質的には属国扱いである傀儡国家である。


 そんな中。


 外務大臣のトマス=ゴクラは、帝国軍少将のゲレーロ=マグダディからの宣告を、信じられない表情で聞いた。


「し、支援を打ち切りる!?」

「ええ。残念ですが」

「それは……その経済的な支援ですか? それとも、軍事的な――」

「すべてです」

「……っ、そ、そんな。なぜ?」


 ノクタール国は、常に最前線でイリス連合国と戦わされているため、帝国からの支援が不可欠である。


「おわかりでしょう? 情勢が変わったんです」

「……っ」


 ゲレーロは冷静に告げる。


 要するに、ノクタール国を支援する旨味がなくなったと言うことだ。帝国が支援していた理由は、イリス連合国との境にあるガダール要塞を支配していたからだ。


 それが、つい先日、イリス連合国の奇襲によって奪還されてしまった。


 しかし、トマスとしては納得ができない。いや、納得する訳にはいかない。


「その……こう言ってはアレですが、ガダール要塞が奪還された原因は、我々の責任ではなく貴国のーー」

「我が帝国には一切の責はない」

「……っ」


 トマスは目の前で言いきるゲレーロに明確な殺意を覚える。しかし、悲しいかな逆らうほどの国力を持ち合わせてはいない。


「ただ、すべての支援を打ち切るとは言ったが、決して貴国を見捨てたわけではない」

「と言うと?」

「一人、我が帝国から大尉級の将官を派遣する。貴国は深刻な人材不足だろう?」

「……っ」


 なんの茶番だろうか。トマスは絶望感に襲われた。死刑台にでも送るつもりだろうか。どうせ、帝国内の覇権争いに敗れて、落ちてきた将官の一人なんだろう。


 そんな政争の道具に使われるだけの存在と成り果ててしまったことに、絶望感を感じざるを得ない。


 冗談じゃない。


「……今さら、1人派遣されたところで、なにかが変わるとでも?」

「天空宮殿の報告では、非常に優秀な人材であるとのことだ。我々は、貴国の同盟国として、善戦を期待している。半月後には派遣されるだろう。それでは」

「……」


 颯爽と去って行くゲレーロを、トマスは絶望をもって眺める。


 もはや、死刑宣告のようなものだ。


 彼が退出してもなお、そのショックから抜け出せない。3年前……ノクタール国はイリス連合国から帝国へと寝返った。


 その方がマシかと思えたが、地獄の始まりはそこから始まったと言っていい。今更、降伏したところで国民が全員奴隷にされる未来しか見えない。


 かと言って、このまま戦を続ければ、それこそ国民の命はない。どちらの未来も選べないが、どちらかの未来を選ばないといけない。


「……はぁ」


 しばらくして。


 トマスが顔を上げようとすると、部下のイルダースが急ぎ足で会議室へと入ってきた。


「トマス外務大臣。大変です!」

「なんだ? いったい、どうしたというのだ?」

「ガ、ガダール要塞にいるイリス連合国の兵が」

「……っ、攻めてきたのか?」


 トマスは絶望感に襲われながらも尋ねた。ガダール要塞は、もともとノクタール国の領土だった。ここを落とされては駄目だと必死に守っていたが、帝国の要人が入ってきた時に情勢が変わった。


 彼らはガダール要塞の支配下を帝国に置くと宣言して、好き勝手し始めた。ノクタール国の戦士たちは、軍議に参加することなく、結果、イリス連合国の奇襲で落とされた。


 3年間。必死で守り続けた要塞は、帝国ばかのせいで3ヶ月で落ちた。その怒りは外務大臣のトマスへと向けられ、今回はその補償を申し入れに来たのに。


 しかし、もはや、それどころではない。


 兵站上、イリス連合国が続けて攻め込むことはない。そう思っていたが、もし攻め込んでくれば万事窮す。ノクタール国の首都決戦にまで発展してしまうだろう。


 亡国。


 その2文字が、トマスの肩に重くのしかかる。


 しかし、部下はイルダースは首を横に振る。


「いえ……」

「では、なんだ! 勧告要請か?」

「そうではなくて……」
























「ガダール要塞が……敵軍が全滅しました」

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