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辞令


           *


 天空宮殿人事院は、エヴィルダース派閥に牛耳られてはいる、まさしく魔窟と呼ぶに相応しい場所である。


 ヘーゼンがその部屋に入ると、そこには室長のガナール=ドクマンが立っていた。黒縁眼鏡をかけた神経質そうな男で、表向きに忖度するようなことはないように思える。


「……」


 そんなガナールは、隣の太った老人を一瞥し、黒縁眼鏡をクイっと上げながら尋ねる。


「ブュギョーナ秘書官。なぜ、あなたがここに?」

「でひょ……でひょでひょ。まあ、うるさいことを言うな、見学だ。構わないだろう?」

「……ヘーゼン殿。構いませんか?」

「はい」

「でひょひょひょ。あ、あーりがーとーねー」

「……では」


 再び黒縁眼鏡をクイっと上げて、ガナールは淡々と辞令を読み始める。形式ばった言葉が次々と並び立てられ、それが終わると、自身の言葉で労いの言葉を語る。


「このたびは、昇進おめでとう」

「ありがとうございます」

「……では、続けようか」


 ガナールは黒縁眼鏡をクイッと上げて再び辞令の朗読を始める。


「ヘーゼン=ハイム。貴殿はドクトリン領において、多大な功績を残した。それにより、貴殿を大尉格へと任命する」

「はっ」


 ヘーゼンは礼をとり、辞令を受け取る。


「そして、爵位についても、『経略』へと任命する」

「はっ」


 3段階の格上げ。これで、下級貴族でも下から4番目の地位まで格上げされた。大尉格となれば、爵位も引き上げられるもので、ここまで大した驚きはない。


「でひょ……ひょひょ」

「……」


 依然として、ブュギョーナは余裕の表情で笑っている。しかし、そんなことは気にも留めずに、ガナールは黒縁眼鏡をクイっと上げて話を続ける。


「そして……貴殿が次に行う任務だが、()()として戦場で活躍して貰いたい」

「……はっ」


 少佐待遇。それは、大尉よりも1階級上の任に就くと言うことだ。しかし、階級が大尉格でありながら少佐となるというのは――


「でひょでひょ……理解したか?」

「……」


 隣のブュギョーナが勝ち誇ったように笑う。ヘーゼンは太った老人をガン無視して、ガナールに尋ねる。


「属国への出向と言うことでしょうか?」

「違う。貴殿は、同盟国である()()()()()()()()()として活躍してもらいたい」

「……」


 ノクタール国。帝国の100分の1にも満たないほどの領土しかない極小国である。同盟国とは名ばかり。ほとんど属国のような立ち位置で帝国とイレス連合国との間に挟まれている。


 数年前にイレス連合国から独立を勝ち取った国であるが、その実情は帝国の画策によるものだ。以来、イレス連合国からたびたび攻撃を受け、帝国が武器支援などに回っている。


「貴殿の実力を見込んでのことだ。難しい戦況なのは承知の上だが、貴殿ならばやれると信じている」

「でひゅ……あ、おいおい。嘘は言っちゃいかんな?」

「……」


 ガナールは黒縁眼鏡をクイっとあげて沈黙する中、ブュギョーナが勝ち誇ったように顔を近づけてくる。


「聞いた情報だと、近々、帝国はノクタール国の支援を打ち切るという話だ」

「……」


 その噂はヘーゼンも耳にしていた。


「あ、にも関わらず、貴様を派遣した理由はわかるか?」

「……教えて頂けますか?」

「あ、貴様は帝国に必要ないからだよ、バーカ。死ね」

「……」

「でひゃ……でひゃひゃひゃひゃひゃ、でひゃひゃひゃひゃひゃ、ひゃひゃ、ひゃひゃひゃでひゃひゃ、ひゃひゃひゃ」

「……1つだけお答えしましょう。ブュギョーナ秘書官」

「あ、んー? なんだい?」


 顔面をこれでもかと近づける老人に対し、黒髪の青年は思いきり眼光を見据えながら答える。


「私が再びこの天空宮殿に戻ってきた時。あなたは、泣いて詫びながら土下座するでしょう」

「っでひゃ―――――――! はひゃひゃひゃ! はひゃはひゃ――――! そんなことは、あっりえっない―――――!」


 ブュギョーナは負け惜しみと取ったようで、狂喜しながら答える。


「ただ……あなたは土下座が好きじゃないと思いますので、許してあげますよ」

「はひゃ……はひゃひゃ……あ、なんで、なんで許してくれるの――――? そんなこと、できないからー―?」

「違います。土下座じゃなくて、土下寝で許してあげますよ」


 !?


「は……っひょ」

「土下座よりマシでしょう? その気持ち悪い腰の動きで、あなたの異常な性欲が満足できるように、土下寝して腰をカクカクと擦り付けるといい」

「……」

「大衆の面前で、あなたお得意の自慰行為をなされば、その恥知らずな性癖も少しはマシになることでしょう……私の読みが正しければね」

「……」


 ヘーゼンの言葉を、しばらく黙って聞き続けていたブュギョーナだったが、堪えきれずに吹き出して狂喜じみた爆笑を始める。


「ぷぎょーーーー! でひょひょひょひょ! あ、負け惜しみもここまで来れば大したものだな。私も1つだけ言ってあげよう」

「……」

「貴様が死んだら、その死体を前に貴様の母親をガンガンに犯しまくってやるよーーーーー! ふんふんふんふん! ふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふん!」


 ブュギョーナは何度も何度も腰を振りながら、エアでバックで犯しまくる。


「クク……どちらが正しいか。楽しみですな」

「ひょひょ……あ、ああ。ほーんとーになー」


 互いに眼光を光らせながら、互いに勝ち誇ったように微笑む。


「……」


 そして、そんなやり取りを冷静に眺めながら、ガナールは黒縁眼鏡をクイっと上げながら締めくくる。


「……辞令は以上だ。健闘を祈る」

「はっ。では、失礼します」


 短くお辞儀をして、部屋を退出する。


「……」


 そして、廊下を歩きながら。
























 


 ヘーゼンは歪んだ笑顔で笑った。




              領地運営編 END

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