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グレース



 緑のローブをまとった女性たちは13人いた。先頭を歩いているのは総白髪の老婆。前方は彼女と同じくらいの年代だったが、後ろの方は同年代くらい女性やヤンほどの年頃の子もいた。


 2人は当然のように端に寄って深々とお辞儀をするが、後方の一人が立ち止まり、ヘーゼンに向かって興味深げな瞳を向ける。


 かなり美形の若い淑女だった。


 エマと同じくらいの年頃だろうか。肌の若々しさから推察したが、その大人びた雰囲気でかなり年上にも見える。


「どうしましたか? グレース」

「この者に……()()()()()が見えまして。エルグレス様、先に行っていてもらえますか?」

「……わかりました」


 星読みの長らしき老婆は、他の星読みたちとともに歩を進めて去って行った。


「……お名前は」

「ヘーゼン=ハイムです」


 平然と答えながらも、内心では驚いていた。当然、彼女たちの存在は知っていたし、少なからず目をつけられる可能性もあると考えていた。


 星読みを『魔力の探知能力の優れた者』であると解釈していたからだ。


 なので、目立たぬよう宮殿内で振る舞うため、ごく一般的な魔力量にまで魔力量を抑える薬を服用していた。


 にも関わらず、彼女は迷いなくヘーゼンに目をつけた。


「不可思議な感覚です。あなたの中にこれまで見たこともないほどの闇が蠢いているにもかかわらず、あなたには『星』が見えない」

「……私に詩才はありませんので、どうにもわかりかねますが」


 会話を打ち切るため素っ気なく振る舞うが、言い得て妙にヘーゼンの内状を表している事に動揺した。


「あ、あの……ヘーゼンがなにか失礼な事を」

「……」


 エマがオドオドとした様子で話しかける。すると、グレースは彼女を見ながら柔和な笑みを浮かべる。


「あなたの星は暖かいですね」

「えっ……はい、ありがとうございます」

「……」


 人智を超えた魔力以外の感知能力。ヘーゼンすらも把握し得ない能力があることに、警戒心を高くする。


 そんな思惑を知ってか知らずか。緑のローブをまとった女性は、そのまま少しエマを見つめ、やがて、向きを変え星読みたちと逆に歩き出す。


「では、行きましょうか?」

「えっ……行くって、どこに……」

「イルナス皇子の元に。ご案内しますよ」

「えっ!」


 エマが飛び上がりそうなほど驚いた。それ自体、思惑を自白しているようなものだと、ヘーゼンは大きくため息をつき、グレースに向かって視線を送る。


「なぜ、それを?」

「ふふ……」


 その質問に対し、グレースは不可思議な笑みを浮かべるのみだった。


「……驚きましたね。思考を読み取るなんて」

「あら? それは、私の台詞ですよ。先ほどから、心を閉じて、なにも読ませてくれそうにないあなたに」

「……」


 当たっている。声をかけられた瞬間から表層的な思考と深層的な思考に分断した。これは、ヘーゼンが心を読み取る悪魔と対峙した時に用いる技術だ。


「少なくとも、初対面でそこまでの対応をする魔法使いを私は知りません」

「……」


 エマの心を読み取ったのだと言いたいのだろう。しかし、この情報すら偽りの可能性もある。ヘーゼンの警戒心はなおさら強くなる。


「イルナス皇子は、庭園にいらっしゃいます」

「大丈夫ですか? 初対面の、心の読めぬ者を案内しても」

「急な謁見はご遠慮いただきますが、遠目からなら」

「……イルナス皇子とのご関係を伺ってもいいですか?」

「なぜですか?」


 グレースは不思議そうに小首を傾げる。


「人の善意は信用しないようにしてるんです。言葉を選ばずに言えば、()()()()()()()()()()?」


 ヘーゼンは即座に類推する。得体の知れない者にも関わらず、案内しようとするという行為。それは、イルナス皇子になんらかの影響をもたらそうとするからだと。


 危害を加えようとしているのか……あるいは。


 そんなヘーゼンの疑問に対し、グレースは少し困ったように笑った。


「私はイルナス皇子の家庭教師です。その立場で言わせていただくと、現状、あの方は困難な状況です」

「……私がその助けになると?」

「わかりません。ただ、あなたの中に見た闇は、私がかつて見た中で一番大きい」

「闇が助けになりますか? 世間一般の考えとは違うように思いますが」

「闇が星を輝かせて、星が闇を映し出す。私は運命さだめに従いイルナス皇子を導くのみです」

「……」


 グレースは不可思議な笑みを浮かべながら、再び小首を傾げた。

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