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再会


          *


 天空宮殿。帝都の中心にあり、贅の限りが尽くされた巨大な建造物である。その場所は、すべての皇族、上級貴族の邸宅があり、かつ、まつりごとを行うための権力が集約された魔窟であった。


 そんな宮殿内の一室で、ヘーゼンとヤンは待機していた。目的は将官として次の辞令を受け取るためだが、さまざまな儀式と手続きがあるため、数日ほど滞在を余儀なくされる。


 しかし、まあ、ヘーゼンのすることは変わらず、常に手を動かし書類を書いているし、ヤンは手だけでなく口も絶えず動いていた。


 そんな中。


「久しぶりー。会いたかった」

「ギシシ……久しぶり」


 部屋の外で、エマ=ドネアの華やいだ声とカク・ズの嬉しそうな声が聞こえる。この2人とは、かつて同じ学院で過ごした間柄だ。講義、昼食、その他のイベントもずっと共に過ごしていた、いわば学友である。


 ヘーゼンもまた、その声に気づくと、珍しく手を止めて、部屋の外へと飛び出して行く。


「エマ! 待ってたよ」

「えっ! そ、そそそそうなの!?」


 予期せぬ発言で、ブラウンショートヘアの美女は、その白い頬を真っ赤に染める。


「あの、そ、そんなに私との再会をーー」

「早速、現場の派閥情報が聞きたい。入ってくれ」

「くっ……」


 真っ赤な頬が、すぐに怒りのあかへと変わった。その前に、『デリカシーとはなんぞや』という事を小一時間説教したいと、エマは思った。


「多分、すーは能力に感情を吸い取られちゃった可愛そうな生き物なんですね」

「っと、この生意気で口の減らない生き物はヤンという。僕の私設秘書官だ」

「あら。あらあらあら」


 紹介した瞬間、エマの瞳が輝き、ヤンの小さな頭をサワサワとなで始める。黒髪少女はそんな大人の応対に慣れているので、存分に可愛られながらお辞儀をする。


「よろしくお願いします!」

「は、はふうぅ……」


 どうやら、幼女は相当な癒やしのようで、ヤンのほっぺをプニプニしたり、抱っこしたり、枚挙にいとまがない。


 そんなやり取りを見ながら、ヘーゼンは小さくため息をつく。


「ここでの生活は相当ストレスのようだな」

「そりゃそうよ。新人だし、毎日激務で右往左往してる」

「それでも君は上級貴族だろう? 割と、気を遣われる部類だと思うが」


 ドネア家は、爵位5位『仁赤』の大貴族家である。末子ではあるが、当主のヴォルトから溺愛されているので、周囲の貴族もぞんざいな扱いはしないだろうと推察する。


 しかし、エマは軽く首を振った。


「上官が爵位に頓着のない人で、とにかく厳しい方なのよ。まあ、学生の頃の方が100倍厳しかったから、全然平気っちゃ平気なんだけど」


 エマがジト目でヘーゼンを睨む。どうも、未だあの時の訓練を思い出すと、身震いを覚えるらしい。


 しかし、そんな身に覚えのない話など完全にスルーして、ヘーゼンは話を続ける。


「天空宮殿にも、そんな気骨のある方がいるのか。ぜひ、紹介してもらいたいな」

「……それには、私の覚悟がいるわね」

「なんで?」

「……っ」

「その理由がわからないところだと思いますよ、すー


 抱き抱えられたヤンが、すかさず横やりを入れてくる。


「驚いた。ヤンちゃんはヘーゼンにハッキリとものが言えるのね」


 エマがナデナデしながら大きく目を見開く。


「言えますけど、全然言うことを聞いてくれないんです、この人」

「それは、君の発言がいちいち青臭くて聞いてられないからだ」

「しょ、少女捕まえて青臭いってなんですか失礼な!」

「青臭すぎると言っても過言ではない」

「過言すぎる!?」


 ヤンがガビーンとした表情を浮かべる。そして、そんなやり取りを見ていたエマが、少女以上に驚いた表情を浮かべる。


「ますます驚いた。ヘーゼンと対等に論戦してる」

「ギシシ…-ヤンは普通の子じゃないからね」


 隣で立っていたカク・ズが笑いながら口を挟む。


「……話が逸れたな。早速、本題に入ろう」


 ヘーゼンはそんな2人の視線を苦々しげに躱しながら、部屋の中へと案内した。

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