表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

229/700


 30分後。ヘーゼンは自室で、服を着た正座のゲスリッチを睨みつけた。


「モズコールからの報告を聞いた後でも信じられません。これは、いったい、どういう状況ですかな?」

「……っ」


 怖い。ただ、単純にそう思った。


「いや、その……男女のことですから、あの、非常に奇天烈な状況ですが……はい」

「……」


 なんの『はい』なのか、全くわからない『はい』をゲスリッチはなんとも言えない表情で答えた。


 しかし、当然そんな回答で納得するはずもなく、


「……男女のこととは言っても、無理矢理は犯罪ですよ?」


 ヘーゼンの追及は続く。


「いや、その、無理矢理に強引にということで言えば、そこまで強引でもなかったような気もしなくも……はい」

「とは言っても鞭は流石に……」

「はぅうう……あ、あ、あ、愛の鞭です!」

「……」


 あまりにも苦しい言い訳に。ヘーゼンもモズコールも呆れた顔を見合わせる。

 

「その……愛と呼ぶからには、合意であったと? そうなのか、義母さん」

「……はい」


 こちらも衣服を着たヘレナが下を向きながら頷く。すると、ヘーゼンはゲスリッチに向ける視線よりも厳しい視線を向ける。


「呆れたな。義父さんが死んだ後、あなたは、すぐに他の男を誘ったというのか?」

「ごめんなさい」

「……恥ずかしいよ、義母さん。あなたは、なんてはしたない人間なんだ」

「……っ」


 違う違う、そうじゃ、そうじゃない。


「ヘーゼン君! 違うんだ! 私が強引にアプローチしたんだ! 決して……その無理矢理ということでもなかったように思うが……はい」


 なんとも表現が難しい。そこまで、強引にくちびるを奪ったかと言えば、そうではない。互いに見つめ合い、双方合意とまではいかないが、流れでこうなってしまったのだと。


 鞭と縄とキャンドルは、もう言い訳のしようもないが。


「……義母さんは自分が誘ったと言ってますが?」

「その……ヘレナさんは私を庇っているのだ。実際には私が……本当に申し訳ない」

「……はぁ」


 ヘーゼンは大きくため息をつく。瞬間、『仕方ないな』という雰囲気が蔓延した。ゲスリッチはここで、畳みかけて謝罪を行う。


「破廉恥な行為をしてしまったと、我ながら反省もしている。しかし、私はヘレナさんに一目惚れしてしまったことも事実だ」

「……好意があったと?」

「もちろんだ! でなければ、親友であるマスレーヌの忘れ形見にこのような不義理を犯す訳はない」


 そこは、強く主張した。彼女は素晴らしい女性だ。


「義母さん……義母さんは?」

「……主人に先立たれてしまって、寂しいという気持ちがあったのかもしれません。それで、親友であるゲスリッチ様の中に……亡き主人の懐かしさを見て」

「……っ」


 なんて、素晴らしい女性なのだろう。ゲスリッチはなんとしてでも彼女を守らなければと思った。


「もちろん責任は取る。私にできることはどんな援助でも惜しまないつもりだ」


 ヘーゼンはしばらく沈黙していたが、やがて、小さくため息をついた。


「……この先、義母さんの心配もしてました。女で独り身の貴族が、有能であったマスレーヌ様の領地を、果たして守っていけるのかと」

「わ、私が全力で力を貸そう」

「それは、どう言う意味でですか?」

「ど、どう言う意味か?」


 そう問われて。あらためて、自問自答する。自分がやってやれる精一杯のこと。損害賠償? いや、違う。もっと、精神的に。


 ヘレナの不安そうな表情を見て、決意が固まった。


「私が……この方を妻に娶る」












           *


 数時間後、ゲスリッチが馬車に乗り込む様子を、ヘーゼンは窓から見下ろしていた。そんな中、モズコールが軽快なノックをして部屋に入ってくる。


「お疲れ様。まさか、ここまで上手く行くとは驚いたよ」


 ヘーゼンは感心した様子で褒め称える。葬儀会場及び城に、精神的に高揚させるような魔法陣を施してはいた。しかし、最終的には本人の意志によるものなので、正直どうかなとは思っていた。


「背徳感のあるプレーを好む者は多いです。やってはダメだと思えば思うほど、その想いも強くなる」

「……っ」


 思わずヘーゼンは後ずさる。


「べ、勉強になった。しかし、鞭とかは……その、やり過ぎじゃないかな?」


 あまりに強い肉体的な痛みは、精神に著しい負担をもたらす。彼女の感情などは1ミリも心配していないが、壊れてしまって使い物にならないのも、考えものだ。


 しかし、モズコールは不思議そうな顔で首を振る。


「特に問題ないとは思います。実際、現場を確認しましたが、あくまで、合意的な性戯だったというイメージです」

「……しかし、鞭で打たれたり、縛られたり、キャンドルで責められるのは、さすがに変た……モズコールくらいの熟練者でないと負担では? ましてや、非力な女性だから非合意で無理矢理の線も捨てきれーー」


























「逆でしたから、問題ないです」

「えっ?」









           未亡人NTR編 END

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ