表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

227/700

困惑


 なぜ。

    なぜ。

       なぜ。


 ゲスリッチの頭の中に、『なぜ』という感情が駆け足で走ってくる。


 なぜ、この部屋に手の油が染み込んだ鞭があるのだろうか。


「……っ」


 なぜ、隣に短くなったキャンドルが。


「……っ」


 なぜ、その隣に使い古された感のある縄が。


 実にワンセット。ちまたで特殊なプレイで使うという噂のアレが、なぜこんな所に。なぜ、なぜ……さっきから『なぜ、なぜ』に対する要因解析がまったく上手くいかない。


「はぁ……はぁ……」


 ますます前屈みになったゲスリッチは、息を切らしながら心の臓を押さえる。まさか……この部屋は。


「だ、大丈夫ですか、ゲスリッチさん」

「……はぁぐっ」


 ヘレナが近くに駆け寄って、身体を密着させてくる。他意はないんだろうが、もはや、垂直に身体を立たせることができない。


「す、すすすすいません。ちょ、ちょっと……お腹の調子が……ははっ」

「……もし、よろしければ少しだけ休んで行かれます?」

「ふぐぅ……」


 ヘレナの視線の先にはダブルベッドがあり、さも、『プレイしてください』と言わんばかりではないか。


 そして、身体を支えようとして、胸が肘に当たっている。この胸肘は、男であれば反応せざるを得ない。


 尻だけでなく、胸すらも柔らかいというのか。


「……っ」


 もしかして、誘っているのだろうか。いや、そんな馬鹿な。彼女はそんな人ではない。葬式で誘うなんて、そんな非常識な人では断じてないのだ。単純に、自分の体調を心配しているだけだ。


「あの、お辛そうですから、早く」

「……くぅ」


 それにも関わらず。


 いや、そんな人でないからこそ。


 ゲスリッチの煮え沸る欲情が再び、マグマのように押し寄せてきた。貞淑な人妻だからこそ。紛れもなく親友を愛していたからこそ。唯一無二の親友の妻であるからこそ。


「……」


 無意識だった。ゲスリッチにもはや、言葉は不要だった。ただ、なにも言わずに、付き添いの未亡人とともに、ゆっくり、ゆっくりとベッドへと進み、そのまま彼女の足を絡めて、押し倒す。


「あっ……」


 ベッドの上に寝転ぶヘレナの上に、乗るような体制になった。


「……」

「……」


 しばらく、互いの目を見つめ合った沈黙が続く。ゲスリッチはゆっくりと顔をヘレナの元へと近づける。


「ダメ……主人が……見てます」

「……っ」


 そこには、マスレーヌを描いた自画像があった。まるで、生きているかのように、ゲスリッチのことを見下ろしている。


 そこで、ふと我に返った。自分はなんて事をしていたのだろうか。親友の目の前で、親友の妻をNTRしようとするなんて。しかも、親友の葬式で。


 もはや、それは鬼畜の所業。


「……うぐっ……はぁ……はぁ……」


 しかし、なんだ、この感覚は。絶対的にダメなはずだ。本来であれば制止する要因になるはずだし、そうすべきものだ。我に返ったはずだ。しっかりと、冷静にこの状況を把握したはずだ。


 そのはずなのに。


 むしろ、親友が見ているからこそ。目の前で、彼女と結ばれたい。そんな背徳的な優越感が、悪魔的な誘惑が押し寄せてくる。


 NTR(ねとり)たい。


「ダメぇ……」

「……」


 そして。


 そんな罪悪感を誤魔化すように。いや、むしろ罪悪感の痛みを心の奥底で愉しみながら。


 ゲスリッチは絵画のマスレーヌに向かって答えた。


「安心しろ。責任は……取る』

「だ、だめ……あっ……」


          ・・・

























 事後。


「奥様ー、奥様ー、モズコールですー。どこにいらっしゃいますか?」

「……っ」


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
あーあやっちゃったwww
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ