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言い訳


 数分後、ガナスッド財務次官が会議を行なっている部屋に到着した。そして、その前には中級財務官のゴズエルがイライラしながら立っていた。


「な、なぜ貴様……」


 彼がそう言いかけた時に会議が終わり、財務次官のガナスッドが出てきた。白髪の多い、しかめっつらが厳しい老人だ。ゴズエルは真っ赤な顔で、我先にと声をかけようとする。


「ガ、ガナスッド財務次官……少々お話が……」

「待て。モルドド上級内政官が緊急で私と話があるそうだ」

「はっ……くっ……しかし、私ももの凄く緊急で」

「なら、なぜ彼のようにメモでもなんでも投げ込まん?」

「えっ……と、それは失礼に当たるかと」

「ふん。緊急時なのだろう? 礼を気にしてる場合ではないし、それくらいの用件ならば後にしなさい」

「ひっ……その……」


 顔色が真っ青になりながら、しどろもどろのゴズエルに向かって、上官のモルドドが柔らかな笑顔を浮かべる。


「ガナスッド財務次官。よろしければ、ゴズエル財務官も同席いただけると。財務部に関わる案件なので」

「……ふん。聞こうか」

「はい。こちらはヘーゼン中級内政官です。彼から説明をさせて頂きます」

「なるほど……ふん。お前が、ヘーゼンか?」


 しかめっつらの老人はすこぶる機嫌が悪そうにつぶやく。モルドドは興味深気な表情を浮かべて尋ねる。


「ご存知で?」

「先日の話は聞いた。私財を投げ打って、民衆に施しをしたそうじゃないか」

「はい。お気に入りましませんでしたか?」

「ふん。個人の寄付に、感想もなにもないだろう。私がそれについて言及することなどない」

「……なるほど。しかし、そこのゴズエル財務官から『ガナスッド財務次官が苦言を呈している』と伺ってますが?」


 ヘーゼンが流し目で、真っ青になっている男を見る。ガナスッドはしかめっつらがますます深くなりながら彼の方を睨む。


「どう言うことだ?」

「し、知りません! 私、今、初めて聞きました」

「なら、なぜ苦情を?」


 ヘーゼンが尋ねる。


「く、苦情など言った覚えはない!」

「ジルモンド、口頭か?」

「いえ。文書で来てます」


 そう言って、紙を提示した。ガナスッドは、面白くなさそうな表情で、手に取って読む。


「ふん……確かに、財務部の印が押されているな。ゴズエル財務官。どういうことだ?」

「し、知りません。私にもわからないです……そ!そうだ! これは、捏造だ。もしくは、誰かの差金だ! 絶対、そうに違いない」


 ゴズエルはますます真っ青になって喚き散らす。


「ジルモンド、筆跡鑑定回せるか?」

「わかりました」

「なっ……ちょ……まっ……」


 明らかに狼狽するゴズエルに向かって、ヘーゼンがたたみかける。


「ゴズエル財務官。いずれ、明らかになりますが、これは、あなたが書いた書類ではないんですね? ガナスッド財務次官の前でお答えください」

「あ、あうぅ……ひ、筆跡を似せられたんだ。陰謀の可能性がある」

「……あなたは口頭でジルモンドには通告しましたか?」

「そんなことはしてない!」

「う、嘘です!」


 間髪入れずにジルモンドが言うが、ゴズエルはそれを大きく上回るほどの大きな声で被せる。


「だ、黙れ秘書官の分際で! 私が『してない』と言ったらしていないんだ。証拠もない」

「……っ」


 ジルモンドが悔しそうに下を向いた時、ヘーゼンが静かに尋ねる。


「でしたら、ゴズエル財務官。あなたは、ジルモンドには何も通告していない、と?」

「当たり前だ。そんな苦情申し入れ書の存在を知ったのも今! ちょうど! 初めてだからな」


 ゴズエルはことさらに、言葉を強く入れる。そんな様子を眺めながら、ヘーゼンは淡々と質問をぶつける。


「よく、自分の筆跡だとわかりましたね?」

「な、なにがだ?」

「初めて存在を知った申し入書で自身の筆跡が模倣せれている可能性について言及しましたよね。ご自分の文字だと疑う根拠があるのですか?」

「な、ない! 貴様が訳の分からない内容で怒鳴り込んできたからだろうが! こんなものは、まったく知らん!」


 ゴズエルは開き直って怒鳴り散らす。ヘーゼンはコンマ数秒考え、口を開く。


「秘書官いましたよね? 同行されてないんですか?」

「そ、それが、なんだ?」

「秘書官にも詳しく事情を伺ってもいいですか?」

「……それは」


 急にゴズエルのトーンが小さくなる。


「そもそも、この場に秘書官がいないことに違和感を感じます。なぜ、同行してないんでしょうか?」

「ほ、他の業務に当たってもらっている」

「どこにいますか?」

「なんで貴様に答えなきゃならん!」


 ゴズエルが顔を真っ赤にして怒鳴ると、ガナスッド財務次官がヘーゼンの前に出る。


「ふん……なら、私の質問なら答えるか?」

「……っ、それは……当然」


 ゴズエルの声が徐々に自信なく、小さくなっていく。


「ゴズエル財務官。君の秘書官はどこにいる?」

「えっ……と、部屋に……だったかなぁ……よく覚えて……」

「ふん。呆れたな。秘書官の動向すら把握してないのか?」

「そ、それは……」


 もはや、白に近いほど青白くなっているゴズエルを尻目にヘーゼンは秘書官に向かって指示をする。


「……ジルモンド。今からすぐにゴズエル財務官の秘書官を抑えろ」

「は、はい」

「確か、秘書官は3人いたな。全員を一部屋に集めてくれ。私はゴズエル財務官の部屋に向かう。ガナスッド財務次官。申し訳ないですが、お付き合い頂けますか? 彼の部屋で証拠を探したいのです」

「ふん……許可しよう」

「ありがとうございます」


 ヘーゼンは深々とお辞儀をして、颯爽と廊下を歩き出した。


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