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尋問(2)


 数分後、ヘーゼンはノックをして、颯爽と部屋に入ってきた。先ほど見たときにも思ったが、まるで演劇の主人公のような堂々としたたたずまいだ。


「お呼びだとお伺いしましたが?」

「ああ……おかけ下さい」


 モズコールの中で、疑念が確信に変わっていく。異常犯と言うのは、得てしてこのような空気感を出すものだ。以前、地方の下級官吏でいた時があったが、そんな輩を何人も見てきた。


「妙に落ち着いてますな」

「そうですか?」

「上官が行方不明なんですよ? しかも、あなたが着任したその日に」

「はい」

「偶然にしてはできすぎだと思いませんか?」

「はい」

「なぜ、そう思わないですか?」

「最近まで北方カリナ地区にいましたので。軍人はその日に同僚が死ぬなど日常茶飯事でしたから」

「……っ」


 それを言われると、文官は弱い。相対的に後方支援の部門は、最前線で戦ってる者に敬意を払う傾向にある。逆に、最前線の将官たちは後方支援の者たちを見下す傾向にある。


 モズコール自身、最前線での勤務経験はないので、なんとも言いようがないような苦笑いを浮かべる。


「こ、これが当日の面会記録です」


 気を取り直して記録を見せる。ヘーゼンは無表情でそれをパラパラと眺め、自身のページで立ち止まる。


「何も書かれてませんな」

「そう。あなたの面会記録にだけ。何一つとして書かれてませんでした。客観的に見て不自然だと思いませんか?」

「思いますね」

「……どのように感じます?」

「恐らく業務に集中していなかったのでしょう。振り返った時に寝てましたから。注意したんですよ。言ってませんでした?」

「……っ」


 これ以上ないくらい堂々と。この上ないほどふてぶてしく。ヘーゼンはサラリと答えた。


「……っ、そんな言い訳が通用すると思うのか?」

「言い訳じゃないですよ。だから、記録が書かれていないんですよ。他に理由がありますか?」

「書けない話をしていた可能性について言及している!」


 モズコールは思わず苛立って机を叩きつける。なんて、白々しい嘘をつく男だ。そんなチャチな言い訳が通用すると思われていること自体に腹が立つ。


 しかし、ヘーゼンは表情すら変えずに尋ねる。


「いいんですか?」

「な、なにがだ?」

「面会記録とは、すべてを記載する義務を追っている。それは、私設秘書官であっても同様です。書けないから書かないで、本格的な捜査が入った時に通りますか?」

「……っ。そ、それは」


 ヘーゼンはニッコリと笑みを浮かべる。


「寝てたんですよ。勤務中に。だから、なにも書かれてなかったんです。よく、覚えてますよ私は」

「嘘だ!」

「では、なぜ書かれていないか聞きましたか?」

「そ、それは……」

「答えられなかったんでしょ? 覚えてないとか、誤魔化さなかったですか?」

「……」

「だいたい、面会記録を書かなかったのは、そちらの失態でしょう? それを、私のせいにされても困りますね」

「……なにか、魔法で操られた可能性がある」

「魔法? 証拠でもあるんですか?」

「……」


 この時、モズコールの額から汗が吹き出る。時間がなかったとは言え、あまりにも準備が不足していた。


「ないんですか? 呆れましたね。私設秘書官というのは、質が悪いですな。状況証拠だけで、私を落とそうとしたんですか?」

「な、なんだとっ?」

「しかし、モズコール秘書官。あなたは、運がいい」

「う、運がいい?」


 モズコールは戸惑う。


「あなたの部下の怠慢で、面会記録が書かれなかったんですよね? 私が内容を覚えているので、それで補完させればいいです」


 ヘーゼンはさらさらと洋皮紙で文字を書き、モズコールへと差し出す。


「……っ、貴様。正気か?」


 言いながら、思わず戦慄を覚える。そこに書かれていたのは、あまりにもヘーゼンにとって都合の良い内容だった。提出した献策を2つ。手放しで褒め称えて、判を押したと書かれている。


 もちろん、バドダッダがそんなことをする訳がないし、部下の提案を手放しで褒めるような男では、断じてない。しかし、その事実を表していることが、あまりに異常だった。


 この男……昨日の行動を公然と偽装しようとしている。


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