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調査


 それから、ある程度の話し合いと調べ物をした後、ヤンとシオンは長のダリルに会いに行った。老人は昨日見たよりも、やつれて、疲れ切っていたように見えた。


「なんの用じゃ?」

「麦畑を調べたいんです」

「……なんのために?」

「小金貨3枚を納めるためには、全体の収穫量を上げる必要があります。でも、今の畑じゃそれが見込めない。原因を掴みたいんです」

「好きにすりゃいい」


 ダリルは答えて、そっぽを向いて寝転ぶ。どうやら完全にあきらめきっているようだ。酒の匂いもする。


 2人が麦畑の方に移動すると息子のバダッドが畑を耕していた。どうやら、彼はまだやる気があるらしい。


「何の用だ?」

「麦畑の調査に来ました」

「調査? お前らみたいな小娘に何ができるんだ?」

「ダリルさんからは許可を得てます」

「親父が? まったく……何考えてるんだか。いや、もう何も考えていないのかもな。好きにしろ」


 バダッドは投げやりに答えて、畑を耕す。2人はその様子を眺めながら、土を掴む。


「まず、成分を調べましょう。栄養がない土だと育たない」

「はっ! 素人が」


 青年は嘲笑いながら吐き捨てる。シオンは少し顔を赤らめて下を向くが、ヤンはまったく気にしない。むしろ、興味深々な様子で尋ねる。


「素人じゃない人知りません? 詳しい人紹介してもらいたいんですよ」

「……なめてんのか? 俺だって素人じゃない。これでも、生まれてこの方ずっと麦畑耕してんだから」

「中途半端なの、要らないんですよね。だって、バダッドさんも、不作の原因わからないんでしょ?」

「……っ」


 ニッコリと。辛辣な一言を黒髪少女は浴びせる。


「土に詳しい人。隣の区でもいいですけど、実績をあげてる人がいいですね」

「……ガマノじいだったら」

「その人、詳しいんですか?」

「土の音が聞こえるって吹いてたな。少し前までは、ガマノじいの麦畑は他の倍取れてた」

「……少し前までは?」


 ヤンが尋ねると、バダッドはバツの悪そうな表情を、浮かべた。


「親父が、止めたんだよ。あんまり豊作だと税が高くなるからって。適当でいいから他と合わせろって。それ以来、やる気無くしちまって。ガマノじいの麦畑もスッカリ荒れ果てちまった」

「まあ……気持ちはわからなくもないですけど」


 収穫量が多ければ、その分だけ税は重くなる。そして、一度でも水準が高くなると、下がるということは中々起きない。長としては、税率を低水準で保っておきたかったのだろう。


「でも。今回は小金貨3枚です。収穫量が上がれば、差分があなたたちの物になります」

「そんなの信用できるか。どうせ、それをクリアしたら来年は小金貨4枚とか、段々と上がっていくんだろう? そうやって、むしり取ってくんだ領主ってやつは」


 バダッドは投げやりに答える。まあ、案の定、全然信用されていない。


 しかし、ヤンは気にせずに尋ねる。


「ガマノおじいさんの家を教えてください」

「行くのか? あれ以来、相当意固地になっちまってるぞ? 腰やっちまって、最近は機嫌が悪いし」

「そりゃ、ちょうどいいです。ガマノおじいさんの麦畑の手伝いをすれば一石二鳥じゃないですか」

「……お前、領主の回しもんだよな?」


 バダッドは不思議そうに尋ねる。


「まあ、そうですけど何か?」

「なんでそんなに必死なんだ? ウチらは、みんなあきらめちまってるのに」

「あきらめるもなにも、まだ何もやってないじゃないですか。できないって言う人は、大抵何もやらない人って相場が決まってるんです」

「……」

「なにか動いてれば、いい案が湧いてくるし、誰か助けてくれたりもします。でも、動かなかったらそこで終わり。なにもしなくてお恵みをいただくほど、私は楽な日々を送ってこなかったので」

「……」


 バダッドは驚いたように目を見開く。ヤンの見た目は6歳前後だ。ここにいる子どもたちとの精神年齢の違いにギャップを感じているのだろう。


「……ここから西に5分ほど歩いた突き当たりの角の一軒家だ。相当人嫌いになってるから門前払いを喰らうかもしれんがな」

「ありがとうございます。じゃ、行こう。シオンちゃん」

「う、うん……」


 ヤンがお辞儀をして歩き出すと、小さな声で「せいぜい頑張れや」という声が聞こえた。

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― 新着の感想 ―
>できないって言う人は、大抵何もやらない人 このお話って時々納得する「名言」があるから楽しいな。
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