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フレイヤが、身振り手振りを交えて、ゲームの解説を始めた。
「あなたは、このゲームの世界では、大金持ちの貴族の令嬢。衣食住に何一つ不自由しない身分で、身の回りのことは全て、お付きの人がやってくれるわ」
「貴族生活を楽しむゲームなのですか?」
「違うわ」
「じゃあ、何のゲームで、何をクリアすればいいのか、教えてください。ルールとかも」
「それは、やりながら覚えて」
「OJTみたいな言い方では困ります。ルールが分からないと――」
OJT――On The Job Trainingって、放置されることがあるらしい。大手企業に就職した先輩が、そんなことを言っていた気がする。
「じゃあね。頑張って」
微笑むフレイヤは、煙のように消えた。
「ちょっと! ん、もー」
それにしても、貴族の令嬢という立場だけ説明され、何をすればいいのか、ルールもゴールも分からないという、酷いゲームに巻き込まれたものだ。
さて、これからどうしようかと思っていると、前方のカーブを曲がってこちらへ走ってくる老執事と2名の若いメイドの姿が見えてきた。
何となく、ビクトリア朝時代の執事とメイドという雰囲気だ。彼らが、私のお付きの人なのだろうか。
「クララお嬢様! こちらでしたか!」
老執事が、しわがれ声で私を呼ぶ。どうやら、私の名前はクララという設定らしい。
それにしても、なぜ、ここにいることが分かったのだろう?
私がキョトンとしていると、
「さあ、今すぐ、お屋敷へお戻りください! エドワード様がお待ちです!」
「エドワード? 誰?」
心の声が、つい、言葉になってしまった。これには、老執事もメイドも同時に目を丸くする。
令嬢なので、ここは「どなたですの?」と言うべきだったかも。なので、言い直し。
「どなたですの、そのエドワード様って?」
「何を仰います? お嬢様の婚約者です。今日、指輪の交換の儀式があるのです」
「何ですの、それ?」
また、三人が同時に目を丸くする。
「気が乗らないというお気持ちは、分からないでもないですが、お嬢様にとって大切な儀式ですので――」
「聞いていませんわ」
これは事実です。
「とにかく、お戻りください!」
真っ赤な顔になった老執事の血圧が心配なので、渋々、彼の指示に従うことにした。